きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
tsuribashi
吊橋・長い道程




2007.12.15(土)


 その3  
その1へ  その2へ  その4へ  その5へ



詩と評論『操車場』7号
soshajyo 7.JPG
2008.1.1 川崎市川崎区
田川紀久雄氏発行  500円

<目次>
詩作品
真間川ママ/高橋 馨 1          良寛堂/長谷川忍 2
影のサーカス/坂井信夫 3         晩秋/野間明子 4
この世に生きている/田川紀久雄 5     名古屋へ/田川紀久雄 7
エッセイ
裏町文庫奮闘記より/井原 修 10      鵯の受難・他/坂井のぶこ 12
末期癌日記/田川紀久雄 14
■後記・住所録 23



 影のサーカス ――25 坂井信夫

 第三回めの興行は皇居前の広場において、天皇ひとりを招待
して行なうことを団長は少年たちに伝えた。そのためには、い
くつかの準備をしなければならない。つまり、これまでのよう
に民衆が喜ぶような演技ではなく、天皇になにごとかを忘却の
底から促すことを目的としていた。はじめに団長はGHQの本
部に出むき、興行が許可されるよう請願した。それは、あっさ
りと受理された。つぎは皇居を訪れるとサーカスヘの招待状を
守衛に手わたした。ぜひおいでくださるように、と団長はそう
告げた。かれは横浜の廃工場に帰りつくと、さっそく少年たち
に芸の向上を依頼した。そして自らも梯子を肩にのせ、Dがそ
の頂上で宙返りするのを練習した。Aはブランコ乗りの出台に
よじのぼると、Gの対岸にいてブランコを空中へと突き放した。
Gは空中で二回転してそれを摘むと、じぶんの出台へと戻った。
Bは、いつもの鴉ではなく白い鳩を懐から飛びださせるために
近くの公園に出かけていった。だが、あいにく灰いろの鳩しか
捕まえられない。今回は団長の意向で烏蛇は同行しないことに
なった。一九四七年の大晦日、トラックに団員たちは乗りこみ、
横浜を出発して皇居前へと向かった。道の両側にはあちこちに
バラックが立ちならび、いまだ戦争の爪あとが剥きだしになっ
ていた。かれらは広場に到着すると天幕を設営し、ブランコと
綱を張り渡した。天皇は夜の八時に、たった独りで来るはずで
あった。けれど十時になってもやってこない。団長は天幕の外
へ出ると、暗い夜空をながめた。そこには夥しい魂たちが黒い
粒つぶとなってひしめいていた。闇のなかにそれらを視ること
ができるのは団長のみであった。すると、どこからか「テンノ
・ヘイカ・バンザイ」という声がひびいた。もうすぐ新しい年
が始まろうとしていた。

 坂井信夫さんの連載「影のサーカス」を紹介してみました。敗戦直後の東京・横浜を舞台に「団長」と少年たちのサーカスが物語りを展開して行きます。今号の「25」では「皇居前の広場において、天皇ひとりを招待して行なう」ことにしたのですが、やはり「十時になってもやって」来ません。その目的は「天皇になにごとかを忘却の底から促すこと」にあったわけなのですけど、これは「一九四七年」当時の民衆に共通の意識だったのではないかと思います。
 サーカスをモチーフに繰り広げられる戦後史、この先どうなっていくのか楽しみな連載です。



詩誌SPACE77号
space 77.JPG
2008.1.1 高知県高知市
大家氏方・SPACEの会発行 非売品

<目次>

吟行・駅前公園にて/中上哲夫 2      走ってゆく星に住んでいる/豊原清明 4
ジーパン/山川久三 6           五丁目電停札所/萱野笛子 8
『イデヨの左手による覚書』/南原充士 10
 §
蕪村句を読む/指田 一 38         はんぺん ほか二篇/葛原りょう 40
ごめんね/秋田律子 44           風と雲に託して/さかいたもつ 46
演歌ダョ/中原繁博 48           その人/山下千恵子 50
回り燈籠の絵のように(3)/澤田智惠 51
 §
わかさぎも/中口秀樹 74          ふみの日/かわじまさよ 76
浜田晋先生に会いに行く/弘井 正 78    日々/内田紀久子 80
かさのきもち/あきかわ真夕 82       夏のシエスタ/近澤有孝 85

詩記 山崎詩織 18
エッセイ
叶えられた祈りの上に流される涙/嵯峨恵子20 アムウの死/山沖素子 24
立冬の頃の庭で/さたけまさえ 26
「詩とアイルランド音楽」 弘井 正 28
リレーシナリオ 大家正志 30・34      豊原清明 32・36

評論 連載]『<個我意識と詩>の様相』〜日本人の自我意識と詩(10)〜/内田収省 56
編集雑記・大家 88



 ふみの日/かわじまさよ

何を書こうか
何から書こうか

ベッドのなか
シーツは
くしゃくしゃのびんせん

ふうとうは
どこにある

男のくちびるが
女のからだに
切手を貼っていく

吐息のスタンプ
さよなら
一房の
愛憎よ

死のとげから
したたり落ちる
血のこえがした

めざめることのない
時は 葉巻のように
ニヒルな影をけむらせる

 「シーツは/くしゃくしゃのびんせん」なら「ふうとうは」掛け布団かもしれないなぁ、「男のくちびるが/女のからだに/切手を貼っていく」という第4連もいいぞ、と思いながらタイトルを見直すと「ふみの日」でした。ふみの日だけを書くのでしたら第5連までで完成でしょうが、作品はさらに続きます。最後の2連はおそらく「一房の/愛憎よ」から発展したものと思われます。この転調によって作品の質は変わったと云えるでしょう。墨のしたたりに変わる「したたり落ちる/血のこえ」。そう生易しい作品ではありませんね。ふみの日を書いた詩は少ない上に、このような視点の詩は初めてではないかと思います。おもしろい作品だと感じました。



詩誌『沈黙』35号
chinmoku 35.JPG
2007.12.10 東京都国立市
井本木綿子氏方発行所 700円

<目次>

吉川 仁/革命をゆめみし兵士は……<1> つら 仮死 どんづまり 2
宮内憲夫/放下在りて 白髪の響き 6    天彦五男/藪蘭 藪枯らし 10
鈴木理子/台詞 16 16           井本木綿子/歴史のはしくれ 20
山田玲子/なにも分っていなかった 置時計 25 中岡淳一/繋がれていて 28
村田辰夫/紫陽花 最終路線 32
あとがき 村田辰夫 山田玲子
<表紙> ワシーリィ・イワノヴィチ・スリコフ「メンシコフの長女」シベリア流刑者の娘



 藪枯らし/天彦五男

すべては藪の中である
藪に目があって蛇がでてくるか
棒が飛んでくるか解らない
解っていたつもりでいたことも
見たり聞いたり試したりすることも
藪の中で睨んでいるのか寝ているのか解らない

藪に分け入ると蚊に刺される
この痒みはなかなか直らない
刺すのはメスだけなのだ
血を求めるのはドラキラだけではない
ブッシュと言う名のどこかの大統領も
牙をむき針を持ってブン・ブンうるさい

民族や宗教や乾湿や寒暖など
聴診器を当てずに機械データーのみを見て
メスを持ったり薬を出したり
毒を出したりする藪医者 大統領!!
藪の中で掛け声をかけてどうする・どうする
自個の利益と損失がごちゃら・ごちゃら

昨日やっと名を確認した植物「藪枯らし」
凄まじい勢いで伸びて太陽を独り占めにする
日照権を奪って他の植物を枯らしてしまう
淡緑色の小花を密生させてそれなりの風情
別名は貧乏葛とも言うがあまり頂けない
古稀過ぎて野草の名を覚えたことは嬉しいが
新しい外来語 カタカナが日本語を覆い
まさにヤブガラシ現象はいさか哀しい

 「藪」から「ブッシュ」への発想は常識的でしょうが、ここでは「藪医者」まで発展させているところがおもしろいと思いました。その「どこかの大統領」が始めた戦争は、「聴診器を当てずに機械データーのみを見て/メスを持ったり薬を出したり」、果ては「毒を出したりする」というのですから、この喩は秀逸です。しかも「自個の利益と損失がごちゃら・ごちゃら」で、石油の利益と自国民兵士やイラク国民の損失を秤に掛けたらどっが得かまで考えさせられます。庭の「藪枯らし」から世界を視ている佳品だと思います。



児童文芸誌『こだま』31号
kodama 31.JPG
2007.11.25 千葉県流山市
保坂氏方・東葛文化社発行 非売品

<目次>
心/小西美穂 2              しんちょう/藤木文乃 3
鏡/宮本亮佑 4              詩/吉松明音 5
手/安道礼実 6              赤ちゃん/中村知優 7
月夜のうさぎ/新川和江 8         空のオルガン/松尾静明 9
このはどり/島田陽子 10          放物線/村田 譲 11
公園の秋/青山かつ子 11          目玉語/岡島弘子 12
風のゆうびんやさん/久野美惠 13      もぐらのしごと 天のしごと/市川満智子 14
P≠ニの決闘/多田ひと瀬 15       はなび/阪口優衣 16
くも/河田陽向子 16            カーテン/中原真愛 17
ごろごろ/荒井きょうと 17         竹馬ができたよ/野田和馬18
元気/阿部かなみ 18            しゃべってみたいな/井上絢香 19
おふろで「ラー」「カー」/えざきもえか 19   キリンとゾウ/大田原千穂 20
てんとうむし/西いあや 20         やご/ながいえいき 21
トラック/喜多美月 21           サッカーのれんしゅう/高橋けんゆう 22
空/山田彩愛 22              おかし/白石朋大 23
かげ/河原歩夢 23             くうき/高山柚美 24
学校がえり/かなやけん 24         カーテン/阪口真菜 25
おばあちゃんの家のドア/中浦柚樹 25    笑顔/徳沢愛子 25
たにんぎょうぎ/佐伯多美子 26       ライオン/高島清子 27
八月十四月/前田裕子 27          カンボジアのゾウさん/道草人 28
子ねこ ジロー/宮入れい子 28       幼稚園児になった/尾崎昭代 29
サンタさんたちへ/江島その美 30      はなかんな/司 茜 31
雪のトンネル/ト部昭二 32         綿あめ/渡邊京子 33
お母さん大好き/原田 慶 34        真夏の夜のこわい話/小沢千恵 35
うれしい時/柳生じゅん子 36        かもめ/中村洋子 37
冬/飛田隆正 37              ふでばことえんぴつとけしごむ/中村優奈 38
やもりのばんにん/福田真章 38       風/脇谷幸歩 39
にじ/藤井 怜 39             わらう/森本莉菜 40
ボール/中島梨紗 40            太よう/湯浅梨恵 41
水/原田莱知 41              麦わらぼうし/渡辺 結 42
お母さんのせなかの目/高山晴奈 43     お母さんとお父さん/廣瀬愛佳 43
花暦 夏−蓮の花/神崎 崇 44       夏/伊藤ふみ 45
算数/安川登紀子 45            かくれんぼ/市川つた 46
思い出/井立輝子 材            あなたが いたら/大石規子 48
夕凪/小島禄琅 48             さよならサハリン/清水栄子 49
気がかり/国吉節子 50           はしる−自閉症とボク(8)/土田明子 51
鴉は天使の影/武石 剛 52         おへそは ねじ/木総子 53
秋の午後/前原正治 54           夕暮れに/田中眞由美 54
虫と銀座/佐野千穂子 56          今のなかに/滝 和子 57
花火/阿部麦穂 58             心/中村知優 58
韓国/廣瀬玲佳 59             おばあちゃん、おきて!/岩間未沙希 60
おばあちゃんのお花/福田紘子 60      しゃべるもの/松山伸一郎 61
野球/勝俣博貴 61             心のふでばこ/安道礼実 62
最後の運動会/大橋育実 62         おじいちゃん/漆戸千弘 63
木の声/井上妃咲 63            教室/寺岡左智 64
私の夢/萩原 萌 64            ペン/市川真李 65
時の天使/篠原祐奈 65           オーストリアの詩/高橋あかね訳 66
オーストリアの詩/松尾直美訳 72      まあだだよ(言葉遊び)/志村宣子 74
犬の名前で/神山暁美 75          子供の瞳/松下和夫 76
心は 花びらなので/絹川早苗 77      大空の職場/谷田俊一 78
枯れ葉蝶/菊田 守 79           紙ヒコーキ/よしかわつねこ 80
山寺の思い出/名古きよえ 82        スミレはスミレ/江部俊夫 83
秋、ニラの花/大石玉子 84         アブとたんぽぽ/保坂登志子 85
フランスの詩/比留間恭子訳 86       クロード・ロワ 水谷 清訳 94
ドイツの詩/松尾直美訳 96         韓国の詩/徐正子訳 100
韓国の詩/敬子訳 104
.          台湾の詩/保坂登志子訳 108
中国の詩/保坂登志子訳 116
編集後記 118
.               表紙絵 内山 懋(つとむ)



 短くなる/渡辺 結 小四

短くなるのは がんばったあかしだ
えんぴつだって 命だって
短くなった物を大事にしていると
なんだかうれしくなる
がんばったあかしだからかな

 子どもの詩には、その新鮮な発想にいつも驚かされるのですが、紹介した詩も良いですね。短くなった「えんぴつ」と残り少なくなった「命」を同列に置く視線に瞠目します。そして「命」も「がんばったあかし」として短くなったんだと思うと、こちらが「なんだかうれしくな」りますね。大人では絶対に書けない詩でしょう。教わることの多い児童文芸誌です。



   
前の頁  次の頁

   back(12月の部屋へ戻る)

   
home