きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.5.3 前橋文学館




2008.7.26(土)


 月曜日から開催される日本詩人クラブ詩書画展の作品搬入のため、午後から銀座の「地球堂ギャラリー」に行ってきました。私たちの前に開催していたグループが終わって、その後に展示準備をすることになっていたようですが、何か手違いがあったらしくまだ終わっていませんでした。1時間ほど後に私たちは展示をするといことになって、ひとまず退散。お茶を飲むグループとビールを呑むグループに分かれましたけど、私は当然後者(^^; 久しぶりに7丁目の「ライオン」に行って生ビールを堪能。こういう待ち時間に呑むビールというものは美味しいものです。

 「地球堂ギャラリー」は2年前に私が担当理事で、日本詩人クラブの詩書画展としては初めてやった画廊ですが、その当時と何も変わっていなくて、なんだか懐かしい感じでした。今回、私は担当ではありませんので、作品を預けるだけです。あとは今回の担当理事を中心に専門委員の皆さまが展示してくれます。下手に居残ると邪魔になるだけですから、早々に引き揚げて居酒屋へ。こちらも長居をせずに20時の小田急で帰宅。健全な一日でした(^^;



豊福みどり氏詩集『ただいま』
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2008.8.25 東京都板橋区 コールサック社刊
2000円+税

<目次>
第T章 ただいま
袋 10        ただいま 12     うたた寝 14
パーツ 16      魔女 20       いつの間にか 22
などと 24      雷鳴 26       団塊 30
午後の空へ 34    足 36        棲む 40
雑草 44
第U章 干しえび
干しえび 50     椋鳥の悪戯 52    ツバメ 54
行き先 58      言葉 62       不安 64
待合室 66      噴水 70       帰途 72
少年兵 フラニス 74  心中 78
第V章 赤いカンナの咲く道で
赤いカンナの咲く道で 84          つばめのお礼 88
百舌
(もず)の速贄(はやにえ) 92         冬の鳥 94
蜘蛛
(くも)の意図(いと) 96 蓑虫 98       コンドルの背中 100
曲芸 104       右往左往 108     茸狩り 110
どくだみ草 112    風の道 114      真実 116
カタカタ 118     会話 120
あとがき 124     題字 豊福みどり



 ただいま

私は時々 空を飛ぶ
遠い親鳥に会いに行くため

親鳥は
羽の繕いをしながらも
とんと 羽ばたくことはなくなった
いつも
私を産んだ場所で
首を長くして待っている

「ただいま」と言って
巣に戻る私を
三本足の
心もとない足取りで
迎えてくれる

いつまでも
親鳥が
私を産んだことを
忘れないように
再会した時は
二羽でじっと にらめっこをする

 5年ぶりの第2詩集です。ここではタイトルポエムを紹介してみました。略歴によると福岡県久留米市生まれで現在は埼玉県在住とありますから、〈親鳥〉が〈私を産んだ場所で/首を長くして待っている〉のは久留米市のことと採ってよいでしょう。〈三本足の/心もとない足取り〉というのは杖を突いた状態だと思います。最終連が良いですね。〈再会した時は/二羽でじっと にらめっこをする〉と、鳥に仮託した佳品だと思います。
 本詩集中の
「雑草」「行き先」はすでに拙HPで紹介しています。ハイパーリンクを張っておきましたので、合わせて豊福みどり詩の世界をご鑑賞ください。



詩誌『歴程』552号
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2008.7.31 静岡県熱海市
歴程社・新藤涼子氏発行 476円+税

<目次>

六道/リバー・オリエンタル…支倉隆子 2  楽器の図鑑…小笠原鳥類 7
地獄の断章…高見沢 隆 10         誤診…柴田恭子 12
死んだ女房…粕谷栄市 16          月蝕句会…野村喜和夫 18
絵…岩佐なを



 死んだ女房/粕谷栄市

 その日、どういうわけか、何度も、同じ女に会った。
淋しそうな顔立ちのきれいな痩せた女で、小笊をかかえ
て、ぼんやり、佇んでいる。
 自分のように、車を曳いて、干魚を売る商いをしてい
ると、いろいろなことがある。女は、掘割の柳の木の陰
にいたり、横丁の角にいたりした。おれが稲荷の社で、
弁当を食っているときも、遠くで、おれを見ていた。
 車を曳いてゆくと、いなくなっている。結局、それだ
けのことだった。その日、家で、銭を数えながら、その
女のことを思い出したが、全く、心当たりはなかった。
 誰だったろう。死んだ女房の知り合いだったかもしれ
ない。それにしても、その後、その女を見ることはなか
ったのだ。
 次に、久しぶりに、その女を見たのは、おれが、病気
で寝ているときだった。夕暮れ、女は、おれの家にいて、
台所で、蕪を洗っていた。
 おれは、布団から、頭を上げて、それを見た。たしか
に、あの女だとわかったが、今度は、女は、居間で、足
袋を縫っていて、おれに気づかなかった。
 そのうちに、あたりが暗くなって、何も見えなくなっ
た。おれは病死だと言われて、寝たきりだったのだ。高
熱が出て、何度も、気が遠くなりかけたから、それは、
そのときだけの幻だったかも知れない。
 本当は、おれは、どこかで、あの痩せた女と一生を共
にしていたのかも知れない。ほんの一度だけ、その暮ら
しの有りようを見ることがあったのかもしれない。
 息を引き取る前に、何かが、おれにそれを知らせたの
だ。いずれにせよ、死んだ女房に、話したら、気の強い
女のことだ。すぐ、ぶちのめされるようなはなしだ。
 人間は、一回しか生きられない。行商をしていようが
いまいが、この世のめぐり合わせは、さまざまだ。
 この世を去るそのときまで、頬を張り倒されるような、
ばかな夢を見たりして、結局、おれは、死んだ女房のと
ころへゆくのだ。

 〈病死〉の男の生前の話という設定ですが、すでに男は死んでいて、その時間の処理が見事な作品だと思います。時代は江戸か、せいぜい明治の頃でしょうか。その時代性も魅力です。〈気の強い/女のことだ。すぐ、ぶちのめされるようなはなしだ。〉というところもスカッとして良いですね。江戸っ子の気風の良さというところでしょう。〈その女〉は結局、〈死んだ女房〉とは違うようですが、同じと採ってもかまわないではないでしょうか。愉しませてもらった作品です。



詩誌『詩創』12号
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2008.7.31 鹿児島県指宿市 宇宿一成氏編集
鹿児島詩人会議・茂山忠茂氏発行 350円

<目次>
詩作品
ゆずり葉…田中秀人 2           次にはいかない…桐木平十詩子 4
台湾…茂山忠茂 8             「む展」点描…茂山忠茂 11
小さな傘…妹背たかし 14          空…妹背たかし 15
あるかもしれない…桑山靖子 16       回転する日常…桑山靖子 17
濡れて咲く合歓…岩元昭雄 19        娘の新著…岩元昭雄 21
クッカル(リュウキュウアカショウビン)…松元三千男 23  誇り…野村昭也 24
言葉の転落…野村昭也 25          だれにも見えないもの…野村昭也 26
玉手箱…野村昭也 27            なくなるもの…植田文隆 31
のこるもの…植田文隆 32          塵のように…宇宿一成 33
小詩集 神の方へ…徳重敏寛 37
 神…38                   神の世界…39
 十字架と私は一つ…40            御子の死…42
 イエスの十字架のそこに…44         精霊よ…46
 マリアからの賜物…47            そのためにこそ−降誕祭の朝に…48
 私の誕生日でもある−父の日に寄せて…49
「詩人会議」七・八月号より転載
吹きすさぶ風のように…宇宿一成 50     中国の街角…茂山忠茂 50
詩誌評・存在の淡さとさびしさ…宇宿一成 51 言えない言葉…植田文隆 55
江口季好編「日本児童詩歳時記」書評 生き生きと子供の息吹…茂山忠茂 56
詩誌評・世界を乗せた舟…宇宿一成 57
詩創十一号読後感 批評を励みに…桐木平十詩子 61
おたよりから…63
後記…67                  受贈詩誌・詩集…68



 あるかもしれない/桑山靖子

果てもなく
咲きあふれた花園のような
七色に輝く
雲の波のような
ものの上に
ゆっくり弾んでは
漂っている
しゃぼん玉のようなものの
無数の浮遊
柔らかで温かい
光のような
澄みきった大気の
無限の中を
いくつもの小さな鐘が
かすかに歌っているような

そのような
死後の世界が

 この作品は構成が成功していると思います。私は〈死後の世界〉を信じているわけではありませんが、思わず、うん、〈あるかもしれない〉と独り言を言っていました。悪い意味ではなく、うまく乗せられた作品です。
 自分の〈死後の世界〉は信じられませんが、亡くなった生母や継母は〈そのような〉処に居てほしいと願います。それがおそらく遺された多くの者の心境なのでしょう。作者の意図もその辺にあったのかもしれません。短い詩ですが心を洗われるような作品だと思いました。



   
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