きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.9.27 栃木・和紙の里




2008.10.18(土)


 偲ぶ会や朗読会に誘われていましたが、全て欠席させていただきました。夕方から自治会の組長会議が予定されていて、いずれもその時間までには戻れないことが分かっていましたので、欠席させていただいた次第です。すみませんでした。
 詩人の集まりにできるだけ参加させてもらうことも大事ですが、生活に密着した自治会の会議も、私の中では同等に大事です。1年間の任期で組内から委託されているという点では、最優先させています。そんなわけで来年の3月末の解任まで不義理を重ねることがあるかもしれませんが、どうぞご了承ください。



大塚欽一氏詩集『春雷』
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2008.10.15 茨城県水戸市 泊船堂刊
952円+税

<目次>
冬の蝿(一)    4         冬の蝿(二)      8
蛍         10         病棟小景        12
ある埋葬      20         クリスマス・ソング   22
帰ろう       24         紫陽花の葉陰に     26
苛立ち       50         坂道で         52
おまえの白い根毛  54         悪夢の時        56
森への道で     64         春雷          68
通夜の席で     70         蹲踞          72
早老症       74         父の右足        76
鎮魂        80         冬の蝿(三)      90
薔薇の       94         エレジー・生きる哀しみ 96
後書
.       124




 春雷
  ――青木孝雄へ――

まだ明けやらない早朝
近くで落雷でもあったのか
はげしい閃光と地響きとともに
ゴロゴロゴロゴロと大音響
次の瞬間 一瞬の稲光に
闇がぱっとその貌を覗かせる

ほの蒼い闇の貌にまじって
隠れるようにあらわれた
先日呼ばれて見舞った時の
物云わない友の射すような眼差し

末期癌で
もう骨と皮ばかりの
見る影もない友の眼差しの異様な光
死をみすえる妖しい眼だったか
道半ばで消えていく悔しさの眼だったか
浮かんでは消える眼差しが
わたしの心をかき乱す

おおいなるもののカタルシスのように
鳴りつづけていた春雷は
やがてどこかへ去って
だが
静寂のもどった朝明けの薄闇のなかで
いつまでも鳴りつづけている
ベルの昔が
はげしく
しだいに耳をつんざくほどに

 今年2冊目の第14詩集になると思います。略歴では全詩集を数えていませんで、これが第12詩集という位置づけになっていましたが、いずれにしろ1990年以降、毎年のように出版しており、その旺盛な制作意欲には敬服しました。
 著者は現在、小児科の開業医ですが、インターン時代から多くの死に直面してきたようです。それを作品化した23頁に及ぶ「紫陽花の葉陰に」は特に圧巻でした。ここではタイトルポエムを紹介してみましたが、「友」へのレクイエムです。〈春雷〉と〈射すような眼差し〉が見事に詩化された作品だと思います。人間の生とは何か、死とは何かを医療現場から問う佳品揃いの詩集です。




『吉久隆弘 全詩集』
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2008.10.15 岡山県岡山市 吉久康子氏発行
非売品

<目次>
刊行にあたって 9
未刊詩集『海を歩く象』
ガオー 18       海の草原 21      満ち潮 24
砦 27         野営 30        連なる 32
海を渡る象―六口島にて 34           砂の嘴 37
詩集『卯の花が咲く』
卯の花が咲く
 卯の花が咲く 40    煤谷
(すすだに)の道 41  くろもじ 43
 空の四方を 44     足音 45        あなたの言葉で 45
 夜光虫 46       雲の時間 47      朝の楽譜 48
 木槿 49        鏡のなかの浜辺 49   夕風を視る 50
 またね 51
ワイン空間
 ワイン空間 52     蒜山
(ひるせん) 53    倉敷川 54
 高野龍神スカイライン55 五十鈴川をわたる 56  西川緑道 57
 百間川遺跡 57     風と絵日傘と 58    大寒参り 59
 土の花 60       はるみの丘にて 61   残照櫃石
(ひついし).62
冬の陽を背に
 冬の陽
()を背に.63   たまごの上の空 65   春菊 66
 薔薇を束ねて 67    最後の汗 68      花のゆくえ 69
 玉葱 70        指輪の由来 72
あとがき  73
詩集『メタセコイアが揺れている』
(くすのき)の森 75.   渇 76         蚋(ぶよ) 78
スギナ 79       夜盗虫
(よとうむし) 80   水番 81
月下美人の光の尾 82  日照り雨 83      闇の尖端 83
花冷え 84       小荷物の中から 85   縁側の風 86
卒寿の母 87      朝陽のなかで 88    藁を燃やす煙 89
牛舎の女 91      春の模索 92      若葉を登る 93
午後の夢 94      夕陽の道 95      窓の風景 96
風花舞う 97      明日への約束 98    夜明けの雨 99
メタセコイアが揺れている 100
.         時のかたち 101
転生の食卓 102
あとがき 103
詩集未収録作品集
帰宅あるいは扉 105
.  雲のゆくえ 106.    崖下の人よ 107
(あかり)の影 109    築地塀 110.      暁へ 111
花のスケッチ 113
.   漣(さざなみ) 114     野積みの窓 115
嘴の漁港 116
.     風景 117.       海水浴 118
赤い干潟 119
.     斜線 120.       測道 121
落ち葉の扉 123
.    新築の日に 125.    触覚 嗅覚 味覚 母の生き様 126
慈雨 127
.       いちばん頼りの空.128  朝のうた 128
命をめぐる水辺 129
.  そんな水をやってはいけない 130
つむじ風 132
『ペガサス詩集』より
劇 133
.        光の道 133.      透かされて 134
視る 134
.       夏の城 135.      夕やけ 135
小荷物ひとつ 136
.   真昼 137.       耕す 137
釣人 138
詩画展出品作品集
四劫 139
.       ブラックホール.139   樹 Mのために 140
展開 141
.       岐路 141.       雛 142
雨垂れ 142
.      風波 142.       花冷え 143
秋のそら 143
エッセイ
ドクダミ 146
.     光清寺の蕗の薹.147   歩いたから見えたもの 149
カワセミ 150
.     うめき 152

吉久隆弘追悼 153
思い出のアルバム 156
年譜 163




 ガオー

象のかたちをした鉄塔が立っている
ながれる雲に手をかざして
百万ボルトの電線を引っ張っている

むかし瀬戸内海は陸つづきで
ナウマン象が群れをなして移動した
花の種も象の足裏ではこばれた
岡山に無いものは四国から
四国に無いものは岡山から

波に押され 海底にごろり
と転がる骨 いま海の底から
蘇生した象の群れが
瀬戸内の島の根を這い登り
吉備高原に
鉄塔となって整列した

四国で生まれた電力を京阪神へ
象が運んでいく
中国山地の尾根から尾根へ
象のかたちをした鉄塔が立っている

雲がうごいているとき
鉄塔が倒れかかってくる
うしろ足で立った巨象が
雲の棚にたおれかかる
大きな象の口のなかに
きょうの日の夕焼けがある

ガオー 風の道をおちてくる音
あらしの日には
電線は風によって何倍もの重さになる
空をささえている
象の悲鳴を聞く

 昨年10月に67歳という若さで亡くなり、日本詩人クラブ会員でもあった吉久隆弘さんの、1周忌を期して刊行された全詩集です。詩友たちが編集して奥様が発行者となっていました。私は亡くなる4ヵ月前に開催された、日本詩人クラブの長野大会で吉久さんの朗読を拝聴していますが、おだやかなお人柄が表出した朗読だったと記憶しています。
 紹介した作品は生前、刊行したいと願っていた第3詩集の巻頭作に予定していたようです。本全詩集の巻頭を飾り、詩展に出品した肉筆色紙の写真も扉に添えられていました。〈鉄塔〉を〈象〉に見立て、太古の〈ナウマン象〉の移動までを見据えた佳品です。〈大きな象の口のなかに/きょうの日の夕焼けがある〉というフレーズとともにスケールの大きな作品と云えましょう。

 全詩集中には第2詩集の「メタセコイアが揺れている」も収録され、そのうち
「藁を燃やす煙」「メタセコイアが揺れている」をすでに拙HPで紹介しています。ハイパーリンクを張っておきましたので、合わせて吉久隆弘詩の世界をご鑑賞ください。
 故人のご冥福を改めてお祈りいたします。




詩誌『花筏』16号
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2008.10.20 東京都練馬区
花筏の会・伊藤桂一氏発行 700円

<目次>
〈詩の勉強〉私の詩的体験(十四)
*現代詩の方向性について……伊藤桂一 42   *花筏通信…………………………………… 58
〈エッセイ〉
ヒマワリの音色…………………谷本州子 48   靖子ネーダーコールンのこと二…唐澤瑞穂 50
本との出合い二…………………小原久子 52   連句の仲間…………………………在間洋子 53
夏の思い出……………………中野百合子 54   武蔵野の夕陽……………………住吉千代美 56
〈詩〉
(扉詩) 六月……………………彦坂まり 1   未来がだんだん…………………竹内美智代 2
水路……………………………小西たか子 4   ユリの木……………………………唐澤瑞穂 6
天の山へ…………………………宮田澄子 8   田園調布九丁目…………………小町よしこ 10
芝居小屋…………………………山名 才 12   雪……………………………………藤本敦子 14
海………………………………帆足みゆき 16   夏……………………………………谷本州子 18
時雨くる…………………………門田照子 20   わたしの浮橋……………………中原緋佐子 22
虹を追う………………………中野百合子 24   手を…………………………………在間洋子 26
折鶴……………………………山田由紀乃 28   問われれば…………………………田代光枝 30
白い馬・ねむの花………………小原久子 32   風のように………………………上田万紀子 34
洗濯の途中で……………………月村 香 36   遠雷………………………………秋山千恵子 38
橋の下で………………………住吉千代美 40
*〔連詩〕花の私語……捌き(伊藤桂一)58
〈表紙・扉絵〉………………帆足まおり
〈カット〉………………………谷本州子     あとがき……………………………表紙の三
〈挿画〉…………………………伊藤桂一     住所録………………………………表紙の四




 六月/彦坂まり

誰もいない朝の果樹園に
太陽が丁度よい角度で入っていく
しばらくして
まあるく膨らんだ風が
出ていった

     ※

硝子窓の雨つぶ
軒下の緑の葉っぱ

雨上がりの花の匂い
水たまりのガソリンの虹

空の上から見ている少女の頃の私
手の先の 幻のかなしみ

 今号の扉詩です。2編の詩と採ることもできるでしょうし、「六月」の風景としての1編の詩としても成り立つでしょう。〈朝の果樹園に/太陽が丁度よい角度で入っていく〉という描写が絵画的で、眼に浮かぶようです。〈まあるく膨らんだ風〉という詩語も、帆船に動かす風のようにイメージできました。〈手の先の 幻のかなしみ〉はイメージし難いのですが、この詩を締める意味では適切かなと思います。〈六月〉は〈幻のかなしみ〉の月、と採ってみました。扉詩としてはうまく収まった作品だと思います。



   
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