きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.10.9 八方池




2008.11.13(木)


 夕方から犬の散歩に行ってきました。拙宅の愛犬は8月に死んでいますので、別の犬です。同じ地域内の友人が足を骨折して、犬の散歩に行ってくれる人がいないので、代わってくれないかと頼まれました。もちろん喜んで引き受けました。拙宅の百個(モモコ)は室内犬でしたから、散歩の必要もないほど家中駆け回っていました。それでもたまに連れ出したものですが、その爽快さを久しぶりに味わいました。人慣れしている犬でしたから、その面での苦労はありませんでしたけど、訓練がされていなくて、そこはちょっと不満でした。「着け!」と言ってもリードは引っ張られっ放し。リードを短く持って、その練習からやる始末でした。

 でも、田舎道を犬と同道というのは、やっぱりいいものです。中型の雑種ですから、それなりの力もあって、ねじ伏せる醍醐味(^^; も味わいました。名前はオスなのになぜかフジコ。庭先に繋がれっ放しという可哀想な状態でしたので、彼も喜んでいましたね。犬と暮らす生活をまたやってみたくなりました。




中島登氏詩集『詩と真実』
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2008.10.31 東京都新宿区 思潮社刊 2800円+税

<目次>
 T
わたしの目は風景の…… 8         秋雨の谷間をぬって 12
暴風圏のチャイコフスキー 16        カフカと大鷲 22
詩は六月の午後 24             ボストン・カフェの夜 30
立ちつくす朝の公園 34           夜と昼のためのパヴァーヌ 40
もっとスローテンポで弾いてくれ 44     夜明けにモンポーを聴きながら 54
 U
沈黙の回廊にて 60             ぼくは渇いていた 64
ピアノはダンテを歌う 68          潮風のバラード 72
永遠に憧れて旅立ったひとに 82       そしてそれから…… 86
完璧な空間のための詩 92          くさむらで 98
人間と物体の移動に関する覚え書 102
あとがき 109
初出一覧 110                装幀 思潮社装幀室




 
夜と昼のためのパヴァーヌ

その夜
すべては善であると思っていた
釣った魚を
もとの小川に返してやったり
捕えた山鳥を食べないで
そのままにしておくことや
女の背中から腎部のほうへ
手を滑らしたりしないことを

その真昼
すべては悪であると信じていた
わたしの背後で鳴り響いていた
銃声を止めようとしなかったことや
盗みをした人の掌に
錐を刺してやらなかったことを

あのころ
昼も夜も関係のない世界で
わたしは出口のない隧道を掘っていた
わたしは牛馬のようにしごかれていた
ときには切り干し大根のように
火に炙られたスルメのように

人生は
すべての幸せを拒否することから始まった
それでも樹々の緑は
わたしの胸でささやきつづけていた

わたしの耳には
海鳴りが轟いていた
それがわたしを強くした

いつ止むともしれぬ
パヴァーヌの遠い調べ
わたしは人間になった

 4冊の訳詩集を含めると11冊目になり、この5月刊行の『遙かなる王國へ』に続く詩集です。本詩集のタイトル〈詩と真実〉について、あとがきでは次のように記されていました。

{私は、ひたすら真実をもとめて詩を書き続けてきた。詩を書くことで、真実に近づくことが出来る、詩をつきつめていくと、真実に突き当たるにちがいないと信じていた。私にとって、詩と真実は同義語だった。そして真実であるためには、自分自身であらねばならないし、自己の存在に対して誠実でなければならない。この詩集になんらかの意味があるとすれば、ただその一点につきよう。}

 紹介した詩は、そのような〈詩と真実〉に基づいて書かれた1篇と採ってよいでしょう。ただ、浅学にして〈
パヴァーヌ〉の意味が解りませんでした。ネットで調べてみると仏語で、16世紀のヨーロッパに普及した行列舞踏のことだそうです。ダンスを伴奏する特定の音楽を描写するのにも使われた言葉で、一組のカップルの行進の意味もあったそうです。従って、このタイトルは〈夜と昼〉というカップルのための舞踏、と捉えられるかと思います。〈夜〉の〈すべては善であると思っていた〉、〈昼〉の〈すべては悪であると信じていた〉と読み進めることができましょう。おもしろい発想で、それが最終連の〈わたしは人間になった〉というフレーズに収斂する哲学的な作品だと思いました。

 なお、本詩集中の
「秋雨の谷間をぬって」「ボストン・カフェの夜」はすでに拙HPで紹介しています。初出から一部改稿されていますがハイパーリンクを張っておきました。合わせて中島登詩の世界をご鑑賞いただければと思います。




朴喜氏詩集『一滴の出会い』
鴻農映二氏訳
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2008.10.20 東京都中央区 東京文芸館刊 2000円+税

<目次>
詩集
『室内楽』から
ディオゲネスの歌・10   虚・11          舞・11
二つの手が・12      予感・12         川辺にて・13
金冠・13         静かな男・14       未来の詩人に・14
序曲・15         常に絶え間ない・16    音楽・16
岩と蝶・17        じいーっと ぼくを・18  ランプの明かりは・19
仏像・19         遠い風景・20       観世音像に・21
壺・22          墓地・23         眠りを称
(たた)える歌・25
詩集
『青銅時代』から
ビーナス幻想・27     孤独・27         卍(まんじ)・28
マジシャン・29      恋歌・29         恐怖と喜び・30
断腸曲・30        母子像・31        天啓・32
仮面2・33        新春の祈り・33      心臓のために・34
恢復期・35        苦悩と恍惚・36      RHAPSODY・37
眼・39          萎
(しお)れない花・42    リルケヘ・43
人類の脇腹には穴が開いた・45            混沌と創造・46
詩集
『微笑する沈黙』から
戒厳状態・71       眠るジプシー・71     老人のいるところには・72
そのとき十字架の・72   某月某日・74       方
(パン)アンドレア神父・74
海 バンザイ 海・77
詩集
『光と闇のあいだ』から
空盃の歌・80       川辺にいこう・80     白い鳥・81
君の長い黒髪・82     地上の松は・83      まるで奇跡のよう……・83
草緑の詩・84       韓国語を称
(たた)える歌・85 光と闇のあいだ・89
民謡詩集
『ソウルの空の下』から
ミスタースマイル・107
.  救世軍鍋に・107.     この世間のどこかには・108
睦まじい二組の鳩のように・109
.           恋は隠れん坊・110
バスの中で・110
.     けれど 自然は・111.   君を思い・112
ぼくの病気は医者も・112
. おまえなんぞに やるもんか・113
墓碑銘・114
.       浮気な女・114.      水気の多い女・114
鉄面皮・115
.       おやまあ あんな・115.  恋愛がいくら楽しいからといって・116
酒って実に妙だろ・117
.  処世術・117.       ある失業者の数え歌・118
詩集
『胸の中のせせらぎ』から
わがベッドに・119
.    雪の降る日・119.     豚の時代・120
悲しい予言・121
.     反知性的傾向について・122 酒瓶は空いた ヒトは四人・123
悲哀・123.        ゴッホの教会・124.    ピカソのニワトリ・124
梅の香り・125.      舌・125.         わたしの恋人・127
老いた盲の肖像・127.   無題・128.        夜の森で・129
この心 池の水面(みなも)に・130.           燭火・131
わたしの息子は……・133  大晦日(おおみそか) 身を切られる……・134
金昌烈
(キムチャンヨル)・135  手・137.         滝・139

其の他の詩集から
あなたといると・141
.   彼女の瞳は・142.     酒場にて・142
桃の花の美しさ・143
.   自画像・143.       自動販売機・144
ローマのポルノ映画館・145
 モラル・145.       ミシシッピー川・146
瞳・146.         神話・147.        ある日の方(パン)アンドレア神父・147
テレーズ・ノイマン修道女との対話・148        カビルと弟子たち・149
ヒマラヤの少女たち・150  太陽が空中の……・150.  ある高潔な独身者の死・151
白磁の大壺・151.     舞いの様(さま)・154.    ヒマラヤの頂上にて・158
モンゴルの詩人 チャカン・160
.           一滴の出会い・161
朴喜詩序説−求道と讃美 成賛慶(詩人・芸術院会員)・164
訳者あとがき 詩の曼陀羅−朴喜の偉業 鴻農映二
(こうのえいじ)・172




 
一滴の出会い

いつも自分の場所を回るしかなかった
一つの黒い点であったのが
火花 散らす円を描きつつ
地球を回り
わたしは再び点に、元の位置に戻ってきた。

変わったものは
さあ、自分の脳細胞を調べてみねばならないが
なにやら一皮剥
()けた感じ。
事物に対する眼の透視度が
もう少し 深まればよいのだけれど。

モンパルナスで韓国の画家
金昌烈の水滴を見たせいか、
全宇宙が時に一滴
(ひとしずく)
玲瀧な玉の中に
痕跡も残さず 溶解してしまうのは。

ノートルダムもウエストミンスターも
聖ペトロ大聖殿も 溶けるんだよ 一滴の露の中に
東洋の寺院も 弥勒菩薩半跏像も
木も岩もライオンも原爆も
星・雲・糞・黒・白・黄色人種も。

わたしの精神がそれを通じてこそ集中できる
言語がわたしの祖国、この体が世界の
中心となれる そこがわたしの場所。
古今東西が こうして わたしの中で
出会い 一滴の露に昇華する。

 お名前はパク・ヒジンさんとお読みします。ジンの文字コードはUNICODEに登録されているのですが、私のパソコンでは表示できません。やむなく画像で貼り付けていますので汚くなってしまいましたが、ご了承ください。
 朴詩人は1931年生まれで高麗大学英文科卒、米アイオワ大学国際創作計画過程修了、1999年韓国文化勲章受賞、韓国芸術院会員という華々しい経歴をお持ちです。
 ここでは詩集の最後に置かれたタイトルポエムを紹介してみました。〈金昌烈〉氏は在仏の〈韓国の画家〉のようで、〈水滴〉の絵は私もどこかで観ています。まさに〈全宇宙が時に一滴の/玲瀧な玉の中に/痕跡も残さず 溶解してしまう〉ような、写真ではないかと錯覚してしまう絵です。この詩はそれに刺激されて出来たものと思いますが、文字通り〈古今東西が こうして わたしの中で/出会い 一滴の露に昇華〉させた作品と云えましょう。




朴喜氏四行詩集『七月のポプラ』
鴻農映二氏訳
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2008.10.20 東京都中央区 東京文芸館刊 2000円+税

<目次>
四行詩の日本語版に寄せて・13
七月のポプラ・16
.     白い椅子・18.       詩人・18
夏のトルソー・19
.     花と美少女・20.      初恋・21
飲もう、酒を・22
.     路上にて・23.       三日続けて・24
蝶・25
.          無題・26.         キャンプにゆく途中・27
無題・28
.         ある宝石の由来・29.    あなたの黒髪は・30
老母の一人言・31
.     溜息・32.         薔薇・33
薔薇・34
.         種・35.          瀕死の農夫・36
静けさ・37
.        花・38.          人形は夢ばかり見て・39
マリア・カラス・40
.    無題・41.         久しぶりに・42
炎のなかでも・43
.     眼鏡をかけた人・44.    中学の同窓生 仇名はスッポン・45
わたしが風になり・46
.   月見草のように・47.    あなたの舌からは・48
元気を出して・49
.     無題・50.         電話・51
Kのイメージ・52
.     涙の下水溝・53.      サングラス・54
雪の夜・55
.        空のメッセージ・56.    わたしが横たわり萎(しお)れるときは・57
ただ、ははっ……・58
.   深い川は・59.       愛情たっぷりの子・60
無題・61
.         幻想・62.         鏡と眼・63
五十歳で・64
.       童貞・65.         無心・66
土星人・67
.        孤独と空気・68.      一九八〇年の冬・69
無題・70
.         酒・71.          ネズミ絶滅の日・72
代価・73
.         無題・74.         独居偶吟・75
人と人との間・76
.     眼鏡の記憶・77.      虫の声・78
無題・79
.         道を行くと・80.      歯痛・81
無題・82
.         暗がりの中で・83.     夕焼けが美しい火事のよう……・84
こんな人・85
.       奇妙な蟇(ひきがえる)・86   犬と仙人・87
世の中に生まれて・88
.   切るしか・89.       滝・90
無題・91
.         無題・92.         おお、純白の……・93
無題・94
.         こんな告白・95.      深夜の月・96
二、三歳の子・97
.     老年の夢・98.       ふと思い浮かぶ・99
摂理・100         無題・101         老いながら・102
無題・103         両極・104         偶吟・105
天罰だろうか?・106    俗流・107         田舎に行ってみたら・108
深夜にいきなり……・109  ある霊媒・110       珍しい話・111
五十五歳の重光
(チユングァン)・112.            しなびた手・113
悪趣味・114        希望・115         松の木があるから・116
夢・117          拝金時代・118       空の沈黙を……・119
空から落ちてくる……・120 松よ・121         蛭の唇・122
無題・123         滝・124          汝、友よ……・125
一行詩・126        無題・127         健忘症・128
ロボットは清潔だ・129   詩の美しさは……・130   警句・131
九官鳥・132        星と花・133        単純な詩・134
どれほど
.ありがたいか・135 宇宙の旅人・136      北漢山とわたし・137
無題・138         無題・139         ある蕩児
(あそびにん)の最期・140
沈黙の方がもっと……・141 不滅の雪一片・142     不幸中の幸い・143
師の横笛・144       無題・145         歌・146
人間の偉大さ・147     詩は存在である・148    雪・149
かれの詩・150       沈黙の香り・151      クモの嘆き・152
白楊のように・153     山の色・154        こんな珍風景・155
こんな問答・156      森に入ると・157      希望・158
あくび・159        無題・160         無題・161
海と山羊・162       自然・163         無題・164
無題・165         山に行ってこそ・166    おお、ドストエフスキー・167
くちづけ・168       無題・169         藤の花・170
無題・171         無題・172         きょうは一日中……・173
閉居・174         警句・175         自然の美・176
凌辱・177         龍・178          月の踊り・179
ある日・180        偶吟・181         指揮者頌・182
クァンファムンを再び…・183
.黒い皮膚の……・184    ルチアーノ・パパロッチ・185
ルネ・マグリット・186   信号・187         本然の生・188
偶吟・189         なんの果実だろうか・190  指揮者カラヤン・191
妖鬼のソロダンス・192   無題・193         淫心を抱き……・194
心の中の空いた場所・195  すべての星々は・196    風鈴の音
()・197
草原の花たちと・198    島はとてもよい……・199  松の木と緑茶・200
存在の秘儀・201      魔女のやっつけ方・202   詩人の眼は……・203
梧桐島にて・204      無題・205         早春・206
ツツジ・207        詩の漁師・208       あの・あの・あの・あの・209
飢餓と恐怖で……・210   蘭の花が咲いたから…・211 あの月光を浴びるや・212
わたしの近況・213     人間の意味・214      ミソサザイ・215
父子の像・216       通路・217         無題・218
不思議な樹・219      金星・220         ある詩人の墓碑銘・221
またある詩人の墓碑銘・222 本当の詩は・223      バラ・224
一日中・225        カササギの巣・226     母の逝ったあとは・227
おお 冷たい君の手・228  遂に 遂に・229      四行詩の中に・230
四行詩について 朴喜・231
解説 清澄と飛翔 成賛慶(詩人・芸術院会員)・238
訳者あとがき 韓国の定型詩と朴喜 鴻農映二・248




 
七月のポプラ

最も透明で 純粋な空の膚の奥深く
見よ 燃え上がる大地の舌 緑の炎!
シッシッ音を立て 灼熱する接吻に眼がくらみ
とまどった天使らが ぶつかり合う音もする

 こちらは前述の『一滴の出会い』と同日に刊行された4行詩の詩集です。朴詩人は4行詩のほかにも1行詩、14行詩、17字詩(俳句のことだそうです)も手がけているようですが、特に4行詩には思い入れが強いらしく、冒頭の「四行詩の日本語版に寄せて」では次のように述べていました。

{四行詩というものは、漢詩の絶句の現代的な変身だといえる。起・承・転・結の四句から成るのが絶句だが、短詩としては、最も完美な形であろう。これまで人類が発明し、試みてきた定型詩の中で、最善の完美な詩の形式であること。だから、四行詩の魅力は、完美を志向する私の骨髄にしみ通ったのではないだろうか?}

 その具体例として、ここでは巻頭のタイトルポエムを紹介してみました。きれいに起・承・転・結が決まっていて、特に結の〈とまどった天使らが ぶつかり合う音もする〉というフレーズには意表も突かれ、見事だと思います。日本の現代詩の中でも、最近は2行詩などの定型を試みる詩人もあって、定型見直しの時代なのかもしれないと感じました。



   
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