きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2009.12.7 神奈川県湯河原町・幕山




2010.1.27(水)


 特に外出予定のない日です。いただいた本を拝読していました。




北村愛子氏詩集『今日という日』
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2010.3.2 東京都板橋区 コールサック社刊 2000円+税

<目次>
T わすれないで
はじめて背負った三貫目 10         わすれないで 13
おしるこ 16                援農 19
お仏壇 22                 平和への祈り 24
花やしきかなあ 29
U われもこう
ツユクサ 36                八重桜 38
がくあじさい 40              イタドリ 43
「われもこう」 46              シャコバサボテン 49
ピラカンサ 52               にしきぎ 54
つわぶき 56
V 人生の味
伝えたい 60                ビーフステーキ 64
わたしのお免状 66             人生の味 68
体にしみついてとまらない 71        義母への手紙 74
雨蛙 76                  神様もう一度 79
食事 82
W どうせ生きるなら
かすかな光でも 86             私の療養日記 90
南天の木よ 98               いのちのきらめき 100
気がついてみれば 103
.           えっちらさ おっちらさ 106
春枝さんのこと 109
.            冬の日に 112
X 今日という日
今日という日 118
.             プールデビュー 121
水中ウォーキングをはじめる 124
.      失ったものと得たものと 127
傷跡 130
.                 わたしもぷーわり浮いている 134
義足の人 136
.               安藤さんの水中ウォーキング 139
イルカくんに励まされて 142
.        森田さんという人 146
あなたをみつめて 151
.           どうせ生きるなら 154
つんつるてん 158
介護にかかわり思うこと −家族介護教室にて発表− 162
あとがき 172
略歴 174




 
今日という日

障害者の水泳教室に入ったら
なんと
教えてくれる先生が
右膝から下が義足だった
逞しく泳ぐ姿に
勇気をもらった
おいらもやってやるぜ!
と心で叫んだ
Cグループの生徒の五人のうち
全盲の人が二人いた
一人は三十代後半の青年で
パラリンピックの平泳ぎの記録保持者だという
記録保持者が教室に入る必要ないんじゃない?
と言ったら
水泳は奥が深いのだと言う
もう一人は中年の女性で
緑内障で失明したという
まだまっすぐに泳げなくて苦労している

今日はクロールを泳ぎながら
くるりとひっくりかえって
背泳ぎになる練習をした
爪先を軽く
くるくるまわすキックを教わった
流線型に手と足をのばし
蹴伸びをすると
魚になったような気がした
力がぬけて楽になり
水の中で生き返る
両膝機能障害でも
いつかパラリンピックに
出られるかも知れない

 個人詩集としては3年ぶりの第9詩集のようです。ここではタイトルポエムを紹介してみました。〈両膝機能障害でも〉、〈右膝から下が義足〉の〈教えてくれる先生〉の〈逞しく泳ぐ姿に/勇気をもらっ〉て、〈おいらもやってやるぜ!/と心で叫んだ〉、そんな〈今日という日〉を描いています。〈全盲の人〉や〈緑内障で失明したという〉〈中年の女性〉がいる〈障害者の水泳教室〉。障害に向き合いながらも〈いつかパラリンピックに/出られるかも知れない〉という前向きな姿勢に感激した作品です。
 なお、本詩集中の
「伝えたい」「春枝さんのこと」はすでに拙HPで紹介しています。ハイパーリンクを張っておきましたので、合わせて北村愛子詩の世界をご鑑賞ください。




詩と批評『逆光』73号
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2010.1.25 徳島県阿南市 宮田小夜子氏発行
500円

<目次>
晩秋       嵯峨 潤三 2      ある朝      細川 芳子 6
深夜の月     細川 芳子 8      帰り道      川西 温子 10
いのち      川西 温子 12      グレゴリア聖歌  鈴木 千秋 14
New york 沙   海 16      晩秋のことば   大山 久子 18
初冬       宮田小夜子 20      つままれる
記憶のDNA   木村 英昭 24       −家財道具の地形図片手に−
透視図の中で   藤原  葵 26              ただとういち 22
高野山奥の院にて 儚田 佑子 28      神々の世界    香島 恵介 30
シリーズ 詩(詩人)との出会い(39)
 市川つた詩集「回游」に思う        生還U      木村 英昭 37
         大山 久子 34
コラム〔交差点〕              あとがき           46
 ファースト・キス      42      表紙 嵯峨潤三




 
初冬/宮田小夜子

空が少しだけ低くなって
何事もなかったような
穏やかな
日射しがある

何かの間違いのような
水仙の小さな蕾がたった一つ
処女のように
かたく唇を閉ざしている

騙されても良い
と  思う
嘘みたいな
冬のはじめ

時間は流れるのか
去くのか 巡るのか
上るのか 下るのか
歩くのか 走るのか
信じられないような
昼下がりの静謐

枯れ葉色に染まる

風だけが知る季節の終わりに
問いかけて見る
「いのちの果ては何処か」


あるようで無い
ないようで在るものを
抱きしめている
冬のはじまり

 〈冬のはじまり〉を〈空が少しだけ低くなって〉と表現し、〈たった一つ〉の〈水仙の小さな蕾〉を〈何かの間違いのような〉と見る佳品だと思いました。〈信じられないような/昼下がりの静謐〉というフレーズにも〈冬のはじめ〉を感じることができます。最終連の〈あるようで無い/ないようで在るものを/抱きしめている〉というフレーズも、冬に向かう人間の心境を描いた言葉としておもしろいと思いました。




個人誌『御貴洛』3学期号
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2010.1.10 大分県大分市
なんとかなる編集室・河野俊一氏発行 250円

<目次>
詩  夢のビール 1
   薄羽蜉蝣(うすばかげろう) 5
   陽だまりの 7
連載 ブカツな日々(第3回) 9
連載 おき楽おん楽(第2回)「ルビーの指環」 11
ふじが丘辞典 2 11
御気楽・おきらく 12
OKIRAKU後記 12
(表紙 佐賀県立宇宙科学館・佐賀県武雄市)




 
陽だまりの/河野俊一

陽だまりの
ぬくもりを両手ですくって
顔を洗う昼下がり
合歓の木の夢と私の夢が
どこかで
すれちがってゆく

まどろみの
時間を吐息でめくって
過ぎた日を思う夕暮れ
木々のざわめきと私のつぶやきが
どこかで
まじわってゆく

遠くをみつめるすべてのまなざしよ
その先にある
きぼうという名の平和な村に
ゆらめく人々を
おだやかにとらえよ
そこではみんな
てのひらをぬくめるものを
たいせつにつつみこむ
人にそうせよ 人にそうせよ
とさえずる鳥の声を聞きながら

 〈陽だまりの/ぬくもりを両手ですくって/顔を洗う〉というフレーズにハッとしました。そういう行動をする子どもたち、あるいは自分を想像すると、なんとも言えない〈きぼう〉のようなものを感じますね。現実の世界は〈合歓の木の夢と私の夢が/どこかで/すれちがってゆく〉ばかりなのですが、〈木々のざわめきと私のつぶやきが/どこかで/まじわってゆく〉日も来るのではないかと期待を持ちます。詩が本来もっている力を改めて感じさせられる佳品だと思いました。






   
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