きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.5.6 群馬県榛東村にて

 


2006.5.12(金)

 午前中はリクルートの関連会社に行って、午後は職安に行きました。生れて初めての失業の日々。失業するというのも結構大変なんだなと思います。失業保険の給付を受けなければ気楽なんでしょうが、会社都合の退職扱いになりますから11ヵ月分くれるというので、ちゃんと手続きをしています。
 失業保険を給付してもらうためには三つの要件が必要です。働く意欲があること、働ける肉体があること、学生でないこと。リクルートの関連会社というのは就職支援会社で、私が在職していた会社が全額費用負担しています。ちゃんと就職活動していますよ、働く意欲がありますよという証明のための会社ですね。これから月に一度は支援会社と職安に顔を出さなければいけません。38年も失業保険を収め続けていて、たった11ヵ月分をもらうためにシンドイ思いをするのは何だかなぁ、と思いますけど、ま、しょうがない。
 就職支援会社の担当者は、私より10歳ほど年上の男性で「あなたと話していると楽しいですね、これから楽しみです」と言ってくれましたけど、商売上の言葉とは思えませんでした。真面目に(ん?)失業した人は暗いんだろうなと思います。そういう人ばかりを相手にする職業でしょうから、私のようにヘラヘラと失業した者に対しては気楽に接することが出来るという意味でしょう。私も社会勉強のつもりで通って、いずれ書くものの肥しにしようと目論んでいます。




後藤基宗子氏詩集『かわらなでしこ』
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2006.4.29 東京都豊島区 国文社刊 2500円+税

<目次>
 
朝の祈り    12  かわらなでしこ  15
峠       18  花笛       21
アイスクリーム 24  冷蔵庫      25
チップ物語   28  ハンミョウの木立 32
貝殻      35  別れ       38
ブラックホール 41  白鷺       43
鳩       46  地球っ子     49
 
わたしの仕事  54  石の泪      57
プール     60  家庭科の時間   63
遠足の日    66  魚        69
保健室 一   72  保健室 二    76
保健室 三   80  保健室 四    82
保健室 五   86  椅子       89
象       92
 
留袖の鶴    96  陽炎       100
黄菊      103
. あすなろ     107
むくげの花   111
. ナンテン     114
街灯      117
. 遠い炉火     120
水引草の坂道  123
. 青桐       126
かんべんなあ  131
. 桜の夢      134
羽衣      138

あとがき    141



 青桐

数は三つまで
ひらがなは半分も読めたかどうか
生家の作男五郎あんちゃ*1が
七十二歳で急逝して
一人暮らしになってしまった老母は
  この頃 毎晩五郎あんちゃが
  庭を掃きにくるの
と 言う

帰省した夜
母と二人で床に入ると
池の魚のはねる音に混じって
庭の巨木 青桐の葉が
落ちるのが聞こえる

いつか まどろみのなかで
五郎あんちゃが
のっそり広い庭を掃いている
駄賃に十円玉を数個出すと
  一つ 二つ 三つ
  これでいい
私の手のひらから十円玉を三つだけとり
至福の笑顔で礼を言う

名前の書き方を教えようと鉛筆を持たせて
  なんで覚えが悪いの
と 怒ると
大きな体を縮こませ
私の苛立ちが治まるまでじっと待っている
怒りながら恐れが湧いてくるほど
家の北手にある古い井戸のように深く澄んだ眼だった

世俗の価値観は通用しない五郎あんちゃを
世間は時に
  おんつあくせえ*2
と 嗤い
私もそうだったが
庭を掃きながら
悲しみも一緒に掃いていたのだろうか
どんなに嗤われようとも
限りなくやさしく 従順だったことが
私の悔いを深くする

夜が明けて
庭におりると
落葉はまるで掃かれたように片隅に寄せられ
池には小舟に似た青桐の実が
眠たげな五郎あんちゃの
魂を乗せているように
ひっそり浮かんでいる

    *1 あんちゃ 方言で「お兄さんの意」。
     2 おんつあくせえ 方言で「愚か者の意」。

 「五郎あんちゃ」という人間が良く表現されている作品だと思います。障害があったのでしょうが「家の北手にある古い井戸のように深く澄んだ眼」は、その障害ゆえに神から授けられた特質だったと思いたいですね。「数は三つまで/ひらがなは半分も読めたかどうか」という具体は、効率や知識のみを優先する現実へのアンチテーゼのように感じられます。それを「恐れが湧いてくるほど」ととらえる著者の感覚にも敬服します。「青桐」も効果的に使われた佳品だと思いました。



山崎 森氏詩集『タクラマカン沙漠へ』
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2006.5.5 大阪府箕面市 詩画工房刊 2000円+税

<目次>
T
    薄みどり色の岬 10   タクラマカン砂漠へ 12
八月は残酷きわまる月だ 14         再 発 16
      幻想交響曲 18     退屈な秋の幻影 20
      後から行く 22      航路角ゼロで 24
        冬の旅 26       白鳥の踊り 28
 二〇〇四年のトルソオ 30  二〇〇五年のトルソオ 32
 二〇〇六年のトルソオ 34
U
       白い風船 38       日傘の記憶 40
          銭 42     煙草のメモリア 44
      が一枚外れ 46           罠 48
    尋常小学校の頃 50       天国と地獄 52
   紺のレインコート 54        三角帆舟 56
  東京からアテネまで 58         春 雷 60
V
        犬と石 66         靡け山 68
        姫 川 70         魔の山 72
        天竜川 74       幻の舟形石 76
        鯰と石 78       秋草と逆髪 80
       問答無稽 82
W
    窓の向こうには 88     雨の降らぬ日は 90
     ずくなしの唄 92      ふうけもん考 94
ざまねぇやと云われても 96       名のらぬ男 98
          杖
.100           髭.102
     ラ・フランス
.104          閑居.106
 トカレフ氏のA症候群
.108
X
エピローグ
.それが問題だ.112
        略 歴
.118     装画・中島由夫



 タクラマカン砂漠へ

みちならぬ恋に         *
ふたりは家郷を追われタクラマカン砂漠へ
旅人は橄欖の薫るオアシスに
砂漠の舟を繋ぐ
疲れ果てた人々のみる幻は
飾り窓から秋波を送る吐蕃の舞姫
洒、女そして神、仏、聖典、戦‥‥‥
どれもがタクラマカン砂漠だ

幻想にも聖なる使命と献身がある
これを課したのは
神だったか 悪魔だったか
いまも分からない
ひきかえしておくれと
灼熱の流砂に跪くブルカの女
銃を担いだターバンの男は
ふりかえりふりかえりタクラマカン砂漠へ

また砂嵐が烽台に襲いかかる
大義も覇者も
人間の不安と欠乏の隙間を衝いて
非情の復讐を呼びかける
そしてこの怨恨の戦いに終りはないのだ
高らかに謳う木乃伊たちの凱旋歌
風紋は沙羅沙羅と
タクラマカン砂漠を流れてゆく

   *=Taklimakan 入ると出られない(Uyghur)burqa
    目隠し turban はちまき

 タイトルポエムを紹介してみました。「橄欖」はかんらん≠ニ読み、オリーブのことのようです。タクラマカン砂漠へ私は行ったことがありませんけど古い歴史を感じさせる作品だと思います。「幻想にも聖なる使命と献身があ」り、「これを課したのは/神だったか 悪魔だったか/いまも分からない」というフレーズには「大義も覇者も」「非情の復讐を呼びかける」現在の「怨恨の戦い」を感じます。結果的には「高らかに謳う木乃伊たちの凱旋歌」だけが残るのかもしれませんね。
 詩集中の
「後から行く」「日傘の記憶」「銭」「ふうけもん考」はすでに拙HPで紹介しています。ハイパーリンクを張っておきましたので、合せて山崎森詩の世界を堪能していただければと思います。



本郷武夫氏詩集
『夜は庭が静かだね 一行読めればいい』
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2006.5.7 神奈川県鎌倉市 港の人刊 2000円+税

<目次>
光る庭園 10     冬の光 38     ノート 70
庭――庭ニツイテ 12 冬の庭 40     水器 74
庭の門 14      庭のなかで 42   冬の日 76
庭 16        池の花 44     姿勢 78
雫 18        庭の鉢 46     若葉カ 80
庭園 20       闇の庭 48     赤い花 82
アル日ノ庭 22    庭の全景 50    優しい言葉 86
雨の姿―土湯温泉ホテ 緑色を帯びて 52  こころ 90
 ルにて 24     庭の桜草 54    後記の声 94
庭の実 26      関係 58      古書の影 98
雨の人 28      月明かり 60    入る人と出る人 102
揺れる緑 32     消えた会場 64   庭の日付 106
雨の庭園 34     雪よ 68      あとがき 109
庭の日差し 36



 庭園

星の欠片を集めて佇む歩行者
星は何故落ちてくるのか
天文学者では答えられない
彼がいるからそこに おちている

彼は動いているのにその動きを
誰も見ることが出来ない
彼が天球を見詰めているとき
彼は背を向けて拾っている姿勢

欠片を彼は何処に収納するのか
庭の下の樹影の部屋に
蓋を開けては投げ入れる
溢れることが無いのか 判らない

星は同じ明るさを呼ぶのか
輝きを呼ぶ闇の暗さを好むのか
庭は全体光苔に覆われて
彼を透明な霊体として包み込む

闇に紛れて捨てに行く違法業者の荷台から
庭に星の欠片は零れて来る
すると彼はそれを
暗い空に投げ返していた

 詩集タイトルの作品はありません。それに近い詩句もありませんが詩集全体を暗示するタイトルとして受け止めました。目次からも判りますように「庭」がひとつのテーマになっていると思います。ここでは「庭園」を紹介してみました。「星の欠片を集めて佇む」「彼」とは何の象徴かを考えるのはかなり難しいのですが、「彼を透明な霊体として包み込」んでいることから神の使徒≠ニ見ることもできるでしょう。「闇に紛れて捨てに行く違法業者」という具体がこの詩をおもしろくしていると思いました。
 巻頭の
「光る庭園」はすでに紹介していましたのでハイパーリンクを張っておきました。合せてご鑑賞ください。




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