きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2007.12.11 浜離宮・中島の御茶屋




2008.1.17(木)


 夕方から日本詩人クラブ事務所で第4回「詩の学校」が開催されました。今回のテーマは
「英米詩の周縁のうた」。講師は石原武氏世界の詩であろうとするならば地方的でなければならない。地方的であるということは、中央集権的にある種の権威らしきものに同化しない態度である≠ニの前置きのもとに、ジェームス・ジョイス、ラングストン・ヒューズ、シーマス・ヒーニー、ジョイ・ハージョなどの作品を鑑賞しました。中学生程度の英語だから、と、原文での鑑賞が主となりましたが、英語の言い回し、韻などにも魅了されました。

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 写真は英文の詩を解説する石原武氏。参加者は25名ほど、英語の魅力にとりつかれた講義でした。
 懇親会で石原先生に私の詩を珍しく褒められました。求められて詩と音楽の雑誌『洪水』に「夕暮れの田無では」という詩を投稿したのですが、それが良いとのことでした。どこが良かったかは聞きそびれましたけど、たぶん最終連の、神をいつか罷免する、というくだりかなと思っています。滅多に褒めない先輩だけに、嬉しかったですね。ありがとうございました。


 さて、今日は阪神淡路大震災の記念日、そして拙HPの開設記念日でもあります。1999年の1月17日に開設しましたから、今日で丸9年が経ちました。現在のアクセスカウンターは111,812。年間に1万2000件ほど、月1000件ほど。おいでくださった皆さまに感謝いたします。それでは恒例の、紹介した本の数を発表します。

   詩集等   詩誌等   合計 
 1999年  122  205  327 
2000年  152  271  423 
2001年  179  313  492 
2002年  196  378  574 
2003年  168  438  606 
2004年  155  462  617 
 2005年 245  530  775 
 2006年    260    594   854
 2007年    262    709   971
2008年   11   30  41
合計  1750  3930  5680 

 とうとう5000冊を超えたのだなと思うと、感無量ですね。5000冊というのはどういう数字なのか、自分でも納得しやすいように金額に置き換えてみました。いただいた本には非売品から1万円を超えるものまでありますが、単純に1冊500円としましょう。
 5680冊×500円=284万円!

 1冊1000円だと500万円を超えることになります。これに送料を加えると大変なものだなと改めて感じます。多額の金額と労力を使って、村山個人にこれだけの投資をしていただいたことになり、ありがたい限りです。皆さまのご好意を大事に、これからも運営していきたいと思っています。今後ともよろしくお願いいたします。



斎藤央氏詩集『人物詩鑑』
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2008.2.10 神奈川県小田原市 すもも舎刊
非売品

<目次>
イノウエさん…5   キリヤマさん…9   スミタさん…13
ハタノ君…18     たこまるさん…23   サウナ…28
電車の中で…33    回覧板…37      十五分…42
八戸…47       ロウバイ…52     おゆきさん…57
たかひろ君…61    会話…64
あとがき…69



 ハタノ君

ハタノ君
今頃どうしているだろうか
今もまだ刑務所の中か
それとも シャバにいるのか

中学二年の秋に転入してきた
三角の顔をした
暗い男だった
何を考えているのか
よくわからなかった

忘れもしない
アチーブメント・テストの前日
ハタノ君は
学校に石油を撒いて火をつけた
校舎はコンクリートだったから
幸い燃え広がらなかったけれど
あの日の出来事は
記憶の隅で
今も燻り続けている

卒業してから
ハタノ君の消息は途絶えていたが、
ある日 新聞に載った懐かしい名前
それが君のことだと気づくまでに
さほど時間はかからなかった
なんと
駅前の銀行に強盗に入り
捕まったというのだ

ハタノ君 元気か
今 どこで何をしている
相変わらず度肝を抜くような
悪事をたくらんでいるのか
それとも
改心してまともな道を歩いているか

もう四十年になるんだね
君と別れてから
そんな君のことが
時々僕の心を盗み
小さな懐古の火をつける

 帯には「身近な人々を軽いタッチで描いた図鑑ならぬ詩鑑」とありました。ここでは「ハタノ君」を紹介してみましたが、ハタノ君の「悪事」に重ねた言葉がおもしろいですね。第3連の「今も燻り続けている」、最終連の「僕の心を盗み/小さな懐古の火をつける」など、思わず笑ってしまいました。
 本詩集中の
「サウナ」「電車の中で」「回覧板」はすでに拙HPで紹介しています。ハイパーリンクを張っておきましたので、合わせて斎藤央詩の世界をお楽しみください。



詩誌『饗宴』51号
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2008.1.1 札幌市中央区
林檎屋・瀬戸正昭氏発行 500円+税

<目次>
詩論 モア・カンタービレ!/古家昌伸…4
作品
アフター・ザ・グローブ・ランド 尾形俊雄…6
ことば 木村淳子…8            かみすながわ
−不思議ふしぎの二条通り24 嘉藤師穂子…10
蘭の花/ORCHID 吉村伊紅美…12    転身譚 7 塩田涼子…14
塊炭飴 瀬戸正昭…16            パフィオペドゥラム/あられまじる 新妻 博…18
邪氣払う/サッポロギャバ 新妻 博…19   日溜まり 村田 譲…20
陽に 谷内田ゆかり…22           植物/ハレ/惑星 山内みゆき……24

特集 2007・海外詩特集(アメリカ、イタリア、ルーマニア、カナダ)
短歌、そしてエッセイ ロバート・D・ウィルソン 吉村伊紅美訳…26
俳句、そして俳文 ロバート・D・ウィルソン 吉村伊紅美訳…28
このところ何日も…/無人の家で… マリオ・ルーツイ 工藤知子訳…30
塔より/夜に 街が マリオ・ルーツイ 工藤知子訳…32
ピエタ/オルフェウスのように ダニエラ・クラスナルゥ 木村淳子訳…34
パステル画/秋の詩/ポローニアス/静物 ダニエラ・クラスナルゥ 木村淳子訳…36
名を呼びながら
ソネット1/誕生日−1983年6月26日 ロバート・クロウチ 松田寿一訳…38
年をとったものだと/名を呼びながら ロバート・クロウチ 松田寿一訳…39
ソネット5/娘たちへのソネット ロバート・クロウチ 松田寿一訳…41
連載エッセイ 林檎屋主人日録(抄)12(2007・7〜2007・11) 瀬戸正昭…47
●受贈詩集・詩誌…17
饗宴ギャラリー 植田 莫「春の雪」…2



 塊炭飴 −北空知・旧産炭地にて/瀬戸正昭

連絡がないので
もはや列車で行く
ことはできない

四駆ででかけて
駅前のお菓子屋で
あの塊炭飴を買った

時間になっても
市役所は薄暗く
お茶もださない

春なのに白がまふ
ざわめきは消えて
も 木々は残ろう

漆黒の飴のなかに
少年の黄金の夏の
記憶が悔恨のやうに

うごめいてゐる…

 詩誌『饗宴』を頂戴して真っ先に読むのが「林檎屋主人日録」です。その10月7日の日録に「明け方、赤平市の銘菓を素材にした作品『塊炭飴』出来る」とありました。紹介した作品がそうです。サブタイトルで「北空知・旧産炭地にて」となっていますが、これは私の生地・赤平市のことで間違いないでしょう。赤平市には生まれて2年ぐらいしかいませんでしたから、まったく記憶はありませんけど、隣の芦別市に小学生のとき1年間住んだこと、20年ほど前に赤平市を訪れたことなどの記憶を頼りに拝読しました。

 「塊炭飴」というのがどういうものか知りませんでしたので、ネットで調べてみました。かいたんあめと呼ぶそうで、
赤平で産出した高品位でカロリーの高い塊炭になぞらえて、塊炭飴と名づけられました。石炭を模した色、形をしています。北海道特産のビート糖でつくられ、やわらかな甘味と風味があります。食墨と合成着色料を使用し、砂糖を溶かしてからニッキ油を入れた、香りが高く歯切れの良い味です。価格は315〜1575円です。
 とあり、写真で見ると本当に石炭のようでした。その「漆黒の飴のなかに/少年の黄金の夏の/記憶が悔恨のやうに//うごめいてゐる…」のは作者の感慨ですが、私もまた塊炭飴を手にしたときには同じような思いに捉われることでしょう。真冬、石炭小屋の中の凍った石炭を砕いてストーブまで運んだ記憶がまざまざと甦ります。

 それにしても「連絡がないので/もはや列車で行く/ことはできない」までに寂れてしまったわが生地、もう一度訪れてみたいものです。そんなことを考えながらなつかしく拝読しました。



詩誌『六分儀』31号
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2008.1.11 東京都大田区  800円
小柳玲子氏方・グループ<六分儀>発行

<目次>
樋口伸子 バベルの部屋 1         島 朝夫 ダンス・マカーブル 4
古谷鏡子 水を飲む熊、そしてかもめ 6   林 立人 面(V) 8
小柳玲子 冬の名前 12

鶴岡善久 谷津筆記*6『山西省』の宮柊二 14
夏目典子 ジャン・ジャック・ヘネー展――一九世紀最後のロマン派画家 19
古谷鏡子 断片的な、ペテルブルグ幻影 22
小柳玲子 詩学終焉 24
樋口伸子 名前のはなし 28
表紙/林 立人



 冬の名前/小柳玲子

長い階段を降りていかなければならない
私――看護士こやなぎれいこは名札をつけていく規則である
いつの夜だったか 名札のないものが降りていき
患者は死を迎えた
看護士こやなぎれいこは音高く病室の戸を開ける
いつの夜だったか 音もなく戸をくぐったものがあり 朝方患者は死んだ
「いかがですか」こやなぎれいこは聞く これがひとまずの挨拶である
「昨日母と叔母 それからとても遠い父がきてくれました」
「お加減はどうですか」これもしきたりの一つである
「あなたのうしろにいるのは誰ですか」病人は聞く
とても白い看護服を着ています 少し魚に似ています 口がとがって
まんまるい目 壁に描かれた人みたいです でもお辞儀なんかしています
そういえばこやなぎさんはいつも看護服が汚れていますよね
それにお辞儀なんてしませんよね それって生きてるってことなんでしょうか
「れいこって 冬のお名前ですか」病人は聞く そうですか
早い夏のお生まれですか 四季の早い月に生まれた人ってお幸せなんですってね
そうかなあ と思いながら長い階段を昇っていく
うしろからは壁から抜け出てきたあれが従いてくる
まるい瞬きしない目で従いてくる 明日 もしかしたら明後日
かれは名札もつけず あの部屋にいくのだろう
深い冬に死んでいく人にはどんな名前がふさわしいのだろう
「雪」――「みふゆ」「かげ」「あれの」
どの名前もどこか少しおかしいと首をかしげながら 暗い段差に躓く
名札を落す 拾わない 「寂しむ…がいいかな」とつぶやく
壁を押し分け 入っていく それでは おやすみなさい
みなさん

 登場人物が渾然一体となっています。「看護士こやなぎれいこ」。死んだ「患者」。「病人」。「壁に描かれた人」。その上「名札をつけていく規則」があり、「音高く病室の戸を開ける」決まりもあるようで、その他「しきたり」にもうるさい場所のようです。そして「看護士こやなぎれいこ」は「深い冬に死んでいく人にはどんな名前がふさわしいのだろう」と考え、最後は「それでは おやすみなさい/みなさん」と「壁を押し分け 入っていく」。
 ここには物語りが有るようで無く、無いようで有ります。精神を病むという物語かもしれません。この夥しい登場人物、登場人物とも言えない「かれ」、実はそれらはたった一人なのかもしれません。そんな思いで読んでみました。おもしろい世界です。



詩誌『詩区 かつしか』101号
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2008.1.20 東京都葛飾区 池澤秀和氏連絡先 非売品

<目次>
たちばなもどき/池澤秀和          寂しげな町に/青山晴江
人間99 ケロイド(1)/まつだひでお      人間98 ある愚老の愛の物語(1)/まつだひでお
胡瓜/小川哲史               いつわり/小林徳明
大旅行/小林徳明              秋 終曲/池沢京子
――じわじわと/しま・ようこ        プロジュクトX−果てしない欲望をもつもののために−/田中眞由美
九つの鐘つき/みゆき杏子          インドリンゴ/工藤憲治
ドブネズミ/工藤憲治            字を習う/内藤セツコ
大きな仕事〜ガブリエラ・ガーマングを偲んで/石川逸子



 ――じわじわと/しま・ようこ

――じわじわと
明けはじめる淵が
夢から這い上がる

――じわしわと
ひかれて香り立つコーヒーが
紙面の見出しを漂う

――じわじわと
厳しい冬の陽が
部屋の奥へいざり出る

――じわじわと
早すぎる日暮れを急ぐ街が
今日のわたしを見限る

――じわじわと
不確かな明日の糧が
身を切る包丁に背を晒す

――じわじわと
矢からこぼれることばを束ねて
闇の声を紡ぐ

――じわじわと
最後になった暦に
目を閉じる

見逃してください
           (07.12.18.)

 「――じわじわと」忍び寄るものの中には好ましいものもあります。例えばじわじわと湧き上がる喜び≠ネどが思いつきますが、あらかたは嫌なものが多いですね。この作品をそれらを列挙して、最後に「見逃してください」と締めました。ここは見事で、思わず笑いが「――じわじわと」込み上げてきました。
 リフレインが多いと単調になって難しいものですが、この詩はタイトルも各連の1行目も同じという徹底ぶりで、それが最後の1連1行で見事に収斂させました。リフレインの使い方も考えさせられた作品です。



   
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