きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.3.12 湯河原町・幕山公園




2008.4.12(土)


 午後から日本詩人クラブ3賞の贈呈式が表参道・アイビーホール青学会館4階「クリノン」で行われました。授賞詩書は第41回日本詩人クラブ賞に大掛史子氏詩集『桜鬼(はなおに)第18回日本詩人クラブ新人賞は肌勢とみ子氏詩集『そぞろ心』第8回日本詩人クラブ詩界賞には鼓直氏・細野豊氏編訳『ロルカと27年世代の詩人たち』藤井貞和氏著『言葉と戦争』が選ばれています。『言葉と戦争』以外は拙HPでも紹介していますので、ハイパーリンクを張っておきました。ご参照ください。

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 写真は受賞の皆さまです。おめでとうございました。
 贈呈式には120名を越える皆さまがおいでくださり、同所「ナルド」で行われた記念パーティーにも100名ほどの人たちがご参加くださって盛会でした。夕方からは元会長・筧槇二氏のお通夜がありましたので、贈呈式、記念パーティーともにキャンセルが相次ぎました。正直なところ、予算の面で心配したのですが、参加申し込みをせずにおいでくださった方が多数に上りました。結果的には予定の人数がほぼ揃ったことになり、主催者側としてはホッとしたというのが実情です。おいでくださった皆さま、ありがとうございました。

 私は記念パーティーの司会を、女性会員と二人で仰せつかりました。いつものことですが、乾杯が終わると大変賑やかになります。途中で懇親を中断させてもらって祝辞を何人かに頂くのですが、その祝辞を聞いてくれる人は数人です。理事たちに声を掛けて演壇の近くに集まってもらって、スピーチをする人になるべく失礼にならないようにしました。会社関係は特別としても、ペンクラブなど他のパーティーは静かなものです。詩人の集まりだけが何故か賑やかです。困った現象ではあります。

 しかし、私には賑やかな皆さまの気持が判るのです。パーティーに来ている意味は、受賞者をお祝いするということがもちろんありますけど、実は知人や知らない詩人と話をしたいのです。お酒を呑みながら、なかなか会えない詩人と話をする、気の合った仲間と談笑する、それがおいでになる理由の大部分を占めていると言っても過言ではないでしょう。私もそうですから(^^;

 ですから、私が司会をするときには懇談の時間を多くとるようにしています。前に出てマイクで話をしたい人、何か芸をやりたい人にはもちろん時間を提供しますが、それ以外は必要最小限を心がけています。皆さんが一番やりたいことを大事にする、それが主催者側や司会の務めではないかと思っています。そんなわけで、私が懇親会の司会のときには、ずいぶん楽をさせてもらっています(^^;;

 まあ、そんな感じで司会の大役も無事に終わりました。女性会員のご協力にも感謝します。
 2次会はクラブとして設定しませんでしたから、パーティーのあとは三々五々、あちこちの呑み屋さんに行ったようです。埼玉の同年齢の男性会員が「村山精二と呑みたい奴は集まれ!」と声を掛けてくれたらしく、私はその人たちと近くの居酒屋に行きました。8人もの所帯になって驚きましたが、たしかに一緒に呑んで気持のいい人たちばかりで、すっかり喜ばせてもらいました。みんなで焼酎のボトルを2本も空けて、だいぶ酔いましたね。司会業ではグラスワインを3杯しか呑みませんでしたから、相当ガッツイテいたのが自分でも分かりました。1本は私だけで空けたのかもしれません。
 佳い夜でした。贈呈式においでくださった皆さん、2次会でご一緒させていただいた皆さん、そして埼玉のSさん、ありがとうございました!




柴田千晶氏詩集『セラフィタ氏』
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2008.2.28 東京都新宿区 思潮社刊 2400円+税

<目次>
セラフィタ氏 8   情事 16       新首相誕生 24
熱の島 30      スケアクロウ 40   新世界 48
氷河 54       西日デパート 66
初出一覧 85
短歌 藤原龍一郎   装画 経 真珠美   装幀 思潮社装幀室



 セラフィタ氏

眼が乾く
空調の熱風をまともに受け
データ入力オペレーターの眼は絶えず乾いている
柏店婦人服お直し伝票125件
東京店婦人服お直し伝票272件
――VDT作業は一時間までとする
  一時間連続して作業した場合には少なくとも十分間の休憩をとること――
眼が乾く
四人のオペレーターは終始無言のまま
休憩時間もPC画面を凝視し
トランプゲームに熱中している
<フリーセル> No.29596 はまだ誰もクリアできない

  雨降ればオフィスの午後は沈鬱に沈み深海魚として前世

眼が乾く
何処に居ても
眼が乾く(外気に触れたい)
(外光を洛びたい)
誰といても
眼が乾く(言葉を交わしたい)
(性交したい)
立川店紳士服お直し伝票248件(ノルマ達成)
大宮店紳士服お直し伝票515件(ノルマ達成)
新宿店紳士服お直し伝票204件(ノルマ達成)

  透明なガラスに人の気配して気配のみにて窓が拭かれる

休日は部屋に籠もり次の仕事の資料となる本を読む
性に関する本ばかりを乾いた眼球に流し込むように読んでいる

『プラトニック・セックス』飯島愛
『AV女優』永沢光雄
『セックスというお仕事』別冊宝島編集部
『純愛時代』大平健
一九八九年十月十九日発行「
Hanako」五十九号A級保存版'80年代《けっこう、ヨカッタ》大情報
一九九九年一月二十五日発行「
AERA」――住所不定の子供たち
二〇〇一年一月三・十日発行「
FOCUS」――飯島愛「赤裸々自伝」に書けなかったこと
二〇〇一年一月三・十日発行「
SPA!」――飯島愛の告白≠ノオンナたちが飛びついた理由
それらの合間に柳美里の『仮面の国』を読む

  内線の混信にして不可解な「稟議提出せよ」との指示が

深夜、運動不足解消のため
エアロライフのサイドステッパー四十分(ノルマ達成)
スクワット五十回(ノルマ達成)
腹筋二十回×三セット(ノルマ達成)

二〇〇〇年十一月五日〈セラフィタ〉と名乗る人物からメールが届く。

      〈『空室』拝読〉
     先日、あなたの詩集『空室 
1991−2000」を入手し拝読し
     ました。池袋西武ぽえむ・ぱろうるの新刊コーナーに五冊平
     積みされていました。私は一冊を購入しましたが、残りの四
     冊をどんな人物が購入するのか、どうしても知りたくなり、
     しばらく様子を窺っていました。荒川純子さんの『デパガの
     位置』を手に取ったりしながら。小一時間ほど待つと、スー
     ツ姿の中年男性が迷わずあなたの詩集を手に取り、レジヘと
     向かいました。あれは歌人の藤原龍一郎氏のようでした。
     あなたの詩集については、追々感想を述べてゆきたいと思い
     ますが、今日は一つだけあなたに忠告しておこうと思います。
     あなあなあなあなたのセックスは、益々散文的になってきて
     きてきているはずはずです。次のサイトを覗いてみて下さい。
     今のあなたに必要なものが必ず見つかると思います――。
     ではまたメール致します。
                           (以下略)

 8編の作品が収められていますが、全体として1編の詩と思ってよいでしょう。ここではタイトルポエムの3分の2ほどを紹介してみました。このあと「セラフイタ氏」とのメールの遣り取りを軸に展開していき、「西日デパート」で彼の正体が明かされていきます。非常に長い作品で、しかも小説のような筋立てではありませんから、一言で言うのは難しいのですが、帯には<派遣OL、東京漂流>と書かれています。これはさすがに上手い言葉で、さらに<藤原龍一郎の短歌と交錯しつつ紡ぎだす派遣OLの愛と性の不条理>と続きます。帯の文章のように藤原龍一郎の短歌が絶妙に配された構成も魅力です。その一端は紹介した部分でも読み取ってもらえると思います。作品は無機質を装いながら、あるいは本質的に無機質な作中人物の奥底を探っているように感じました。現代の若い女性の心理と生理を見事に捉えた作品と云えましょう。お薦めです。



隔月刊詩誌『叢生』155号
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2008.4.1 大阪府豊中市
叢生詩社・島田陽子氏発行  400円

<目次>

ハイ・センス、はいはい胚/毛利真佐樹 1  母の笑顔/八ッ口生子 2
ぼくが詩をかくわけ/山本 衞 3      薬/由良恵介 4
設定時間/吉川朔子 5           涙/竜崎富次郎 6
負の贈り物/秋野光子 7          草の粥/江口 節 8
転げ落ちる/姨嶋とし子 9         怒る地球/木下幸三 10
小春日和/佐山 啓 11           夕映えの船/島田陽子 12
手に残るもの/下村和子 13         ウンザンポー/曽我部昭美 14
恋慕/藤谷恵一郎 17            まほう瓶 他/原 和子 16
親心/福岡公子 18             地震ちゃうか/麦 朝夫 19

本の時間 20                小径 21
編集後記 22                表紙・題字/前原孝治
同人住所録・例会案内 23              絵/森本良成



 涙/竜崎富次郎

知らん間に
貯まってしもた詩集と詩論集
それら詩に関する本を
ブックオフに持ちこむと
いりまへん、と
丁重に断られた

右から左に売れたのは
息子が持ちこんだ
マンガ本にコミック本
それとエロチックなヌード写真集
それが売れる本だった

持ち帰った詩集と詩論集
古新聞とダンボールと
いっしょにして
表へ出すと
小一時間もすると
資源回収車のアミカゴに
ポンと放りこまれ
連れていかれたのだ

ぼくはこの詩の運命に
思わず涙した。

 「連れていかれた」という言葉に、作者の「詩の運命」に対する思い入れの強さを感じます。本当は手元に置いておきたかった「詩集と詩論集」だったでしょうに、止むに止まれぬ事情で手放す気持もこの言葉には込められているように思います。「思わず涙し」て捨てた詩集と詩論集たち。日本の詩の、文学の衰退の象徴として、なんとも遣る瀬ない気持にさせられた作品です。



詩誌『錨地』49号
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2008.3.31 北海道苫小牧市
入谷寿一氏方・錨地詩会発行 500円

 目次
<作品>
竪穴…新井章夫 1             チカエップ川…入谷寿一 5
崩れる樹…遠藤 整 7           体温計…中原順子 9
雪の音…山岸 久 11            スロー グッバイ…宮脇惇子 13
夢魘・午夜の夢…桶谷真季子 16       交差点…岩城英志 21
かぐや…笹原実穂子 23           表裏…浅野初子 25
ホテルのロビーにて…菊谷芙美子 27     ガングリオン…関知恵子 29
いとほしい吾が子…あさの蒼 31       山荘にて・What if?…斉藤芳枝 33
<エッセー>
雪国の父…中原順子 37           猫じゃらし…寺島ゆう 38
リハビリ…笹原実穂子 39          ケニアのぬれた叫び…入谷寿一 40
ケイタイ小説って?…文 衛 42
同人近況・通信…36・46・49
<風鐸>『錨地48号』に寄せて…47
受贈詩誌・詩集紹介…50           あとがき…51
同人名簿…52                表紙…工藤裕司 カット…坂井伸一



 体温計/中原順子

母はいつも大きな瞳で
心配そうにじっと私の顔をみた
百日咳 急性肺炎 小児結核 五歳までの私は呼吸器の病気の問屋だった
母は十日も帯を解かずに居たことがあったという
私のための吸入器のアルコールが引火して
母は広い額と髪の毛を少し焦がした
トーフだったかコンニャクだったかを
おでこにのせて寝せられていた母と
慌てた様子の父と近所の人たちのことを憶えている

小学校へ行くようになって
三年生からは不登校のこどもになった
学校へ行くのがいやだった
担任のオールドミスの女教師のスパルタ教育が怖かった
クラス全員を起立させて
長い竹の棒でピシピシ叩いた
その音が自分のところに近付いてくるのがひたすらおそろしかった
何にも悪いことなどしていないのに
何故あんなにおこられてばかりいたのだろう
国は世界を相手に戦争を始めたところだった

熱が出ると学校を休めるのが嬉しかった
昼間 静かな家の中で
枕元に屏風を立てた布団に一人寝ていられる
ガラスのオハジキを並べて学校ごっこをした
オニンギョサンの絵を描いた
一人遊びが私の無上の楽しみだった

ある時ふと思いついて
体温計の先を少し鉄瓶の湯につけた
たちまち水銀の目盛が上って胸がドキンとした

母は心配そうな表情で私の額に手をあてて
「まだシンネツがあるんだわ」と呟いた

母が死ぬまでこのことは私の秘密だった

 最終連がよく効いている作品だと思います。誰もが「母が死ぬまで」言えない秘密というものを持っているのでしょうが、「体温計の先を少し鉄瓶の湯につけた」という秘密≠ヘ微笑ましくなります。しかし、その背景にある「国は世界を相手に戦争を始めたところだった」という時代を見過ごすわけにはいかないでしょう。小学生を不登校にしてしまう時代は、戦中だけではなく現代もそうですが、そこに国家が直接関与しているかしていないかの違いを考えてしまいます。小さな秘密≠フ奥にあるものも考えさせられた作品です。



   
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