きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
吊橋・長い道程 |
2007.12.3(月)
静岡県伊豆の国市からの帰りは国道1号線から箱根新道を通りました。久しぶりの箱根の険で、初冬の紅葉を楽しみながらのドライブとなりました。箱根の紅葉はそれほど奇麗なわけではありませんけど、今年は例年よりも良かったように思います。夏の異常な暑さが奏効したのかもしれません。でも、異常な夏の効用があったとしても、暑さは例年程度に願いたいものです。
○肌勢とみ子氏詩集『そぞろ心』 |
2007.11.30 東京都新宿区 土曜美術社出版販売刊 2000円+税 |
<目次>
一章
虫の居どころ 10 ひっつめ髪 12 均衡 14
刺激 16 びんぼう 18 ずるずるべったり 20
ショッピング 23 しょうもない女 26 戸棚 29
休火山 32 盗られる 36 箍 38
一滴の水の物語 40 初夏(うりずん)の島 44
二章
くさり 48 崖 50 引力されて 52
雨の休日 54 闇 56 喪う 58
見る鳥 60 過失 62 思い違い 64
借景 66 資源ごみ 68 胎内紀行 71
肩 74 耳 76 味覚 78
チョコレート 80 かき氷 82 田螺 85
三章
うしろ向きに 90 舟 92 午睡 94
海 96 「あ」 98 骨 100
悲しまないで 102. 火葬場 105. 葬る 108
浜魂歌 111. 血族 114. いる お母さん 116
再生 118. しずかな赤ん坊 121
あとがきにかえて 124
チョコレート
舌のうえで分かれる
たくさんの甘みとほんの少しの苦み
また 誰かのことを考えはじめている
呑みこんでしまったら終わるから
いつまでも呑みこむことができない
そのひとを
たぶん食べすぎていたのだと思う あの頃
チョコレートの甘さが気にならなかった
チョコレートの苦みに気がつかなかった
くちびるに挟んで
舌先で素早く甘さをはかる
さぐりあいは慣れているから
思わずとろけたりはしない
視点のおもしろい作品に満ち溢れた詩集です。詩集タイトルの「そぞろ心」という作品はありませんが、「あとがきにかえて」には次のような詩≠ェ載せられていました。
朝 目が覚めたら
秋がきていました
――きてくれて助かった
わたしは正直な感想を述べました
この夏の暑さにすっかり参っていました
そして急に新しい詩集を創りたくなりました
いますぐに
なぜこんなに急くのか自分でもわかりません
散らかった部屋を
散らかった自分を
ひと思いに片付けたくなったのかも知れません
まだまだ道は続いているはずなのに
行き止りに立っている気分なんです
そのくせ 本は創りたいのです
すぐにでも
出来心?
いいえ そぞろ心
なのでしょう きっと
こちらもおもしろいですね。「そぞろ心」を広辞苑で引くと、漫心と書くようです。、そぞろはわけもないこと、これというはっきりした理由がないこと、むやみ、などの意味ですから、わけもない心、これというはっきりした理由がない心などと捉えてよさそうです。しかし「急に新しい詩集を創りたくな」った理由はそうであっても、内容は佳品が多くつまっていました。拙HPでもすでに多くを紹介しています。「虫の居どころ(改題前は「夏のスケッチ」)」、「ショッピング(改題前は「包丁」)、「盗られる」、「うしろ向きに」「しずかな赤ん坊」にはハイパーリンクを張っておきました。後ろ3作は一部原作から改稿してありますが、肌勢ワールドをぜひお楽しみください。
紹介した「チョコレート」は、「チョコレートの甘さが気にならなかった/チョコレートの苦みに気がつかなかった」「あの頃」を巧みに表現していると思います。
○文芸アート誌『狼』15号 |
2007.12
神奈川県座間市 光富郁也氏発行 500円 |
<目次>
短歌 6首…木立悟・2 君(小樽にて)…蛍・4
短歌 6首…沢木理桜・6
午後の傷…木立悟・8 小樽…蛍・11
手をめぐる文学的断章…広田修・14 exchange
mind…佳運・17
海のない街…落合朱美・19 体温…石畑由紀子・22
落下…光冨郁也・24 マーブルが、消える…A道化・27
水墨の夏…漆矢石榴・29 共有地/インターセクション…コントラ・32
評論 接触への欲望、虚構による螺旋…広田修・38
レポート記事 絵本カフェで詩のイベント p-cafe
を観に行った…光冨郁也・42
メールインタビュー 石畑由紀子さん・44 落合朱美さん・48
マーブルが、消える/A道化
朝の窓へ起き上がればいつも
眠りと夢の、灰明るいマーブルが
窓形の光に飲み込まれて、消える
その途端、光の中を雨のように下降する黒髪と
閉じたまま濡れてゆく傘の内側のように黙った胸は
言葉を失うことで、そっと、救われている
もっともっと失うことで、そっと、朝に馴染んでいる
ほら、朝だよ
生まれたての振りをして、眼球が
体のぬくさひとつだけを世界に置いている
ああ、朝だよ
それだけの理由で、泣こう
それだけの理由で
眠りと夢の灰明るいマーブルが
窓形の光に飲み込まれて、消える
お名前は「あ・どうけ」さんとお読みするようです。「マーブルが、消える」を紹介してみましたが、Marble
は大理石のことで、他にビー玉の意味もあるようですから、ここでは円形や球がイメージできると思います。「言葉を失うことで、そっと、救われている/もっともっと失うことで、そっと、朝に馴染んでいる」というフレーズに惹かれます。新しい感覚を覚える作品だと思いました。
○詩誌『詩区 かつしか』99号 |
2007.11.25
東京都葛飾区 池澤秀和氏連絡先 非売品 |
<目次>
ガラス箱の亀/内藤セツコ
−金光林『自由の涙』に寄せて/石川逸子 みちいと/池澤秀和
K子/堀越睦子 ざくろ/青山晴江
人間96 日本がしずむ/まつだひでお 人間97 残酷物語(プレカリアート)。人間は商品か?/まつだひでお
水/小川哲史 かたこい/小川哲史
やすらぎ/小林徳明 政治討論/小林徳明
面影(三) 夏ちゃん/池沢京子 洗う/しま・ようこ
しゃぼん玉ひとつ/みゆき杏子 軍歌/工藤憲治
ハイティーン/工藤憲治
ざくろ/青山晴江
ざっくり
口ひらき
ざくろの実
つぶつぶ
つぶつぶ
無数のいのち抱えて
つぶつぶ
つぶつぶ
秋の陽
ルビー色に浴びて
惜し気もなく
我が身を切り開き
――鳥たちよ
食べよ 運べよ
ざっくり
ざくろ
見事
第4連でハッとしました。「ざくろ」は自ら「我が身を切り開」いているんですね。それが自然な、「鳥たち」に「食べよ 運べよ」と願うためであったとしても、改めて石榴の意志≠ノ感動します。「つぶつぶ/無数のいのち」を差し出す石榴もさることながら、そこを気づかせるこの作品も「見事」と言わねばなりません。
○『ヒロシマ・ナガサキを考える』90号 |
2008.1.1 東京都葛飾区 石川逸子氏編集・ヒロシマ・ナガサキを考える会発行 200円 |
<目次>
詩 ハルモニ/李明淑 P1
一兵卒のシベリア捕虜紀(門間祐大郎)P2
私をサラムへと教え育んでくれたもの(丁章)P16
最高裁で勝訴、三菱元徴用工 P33
解放区/丁章
誰もが
民族で
差別されない
それでいて
誰もが
民族を
無化されずに
大切にしていられる
ところ
むろんすべての権利は
等しく
選ぶことも
選ばれることも
公平に為される
ところ
地区住民で決定し
責任を
果たす
むろんその地区を
住民は
全世界生命から
託されていることへの
誇りと
義務を
負わねば
ならない
たとえば過疎地区で
義務教育が
たった一人の子供のために
執り行われているように
民族教育も
たった一人の子供のために
執り行われるべきである
「皇帝の銘ある貨幣は皇帝に返せ」
福音のあの言葉のように
暴力は
あの者たちに
返してしまえばいい
恐怖によっての
支配なんかは
けっしてもう
要らない
夢のようだから
誰もが
夢みようとしない
ところ
ならばいっそ
夢みることない
その現実的思考で
できることから
実現化
追い求めて
みたい
(詩集『闊歩する在日』より)
紹介した作品は今年5月に大阪市外国人教育研究協議会で行われた講演録「私をサラムへと教え育んでくれたもの」の終わりに出ていたものです。講演者の丁章氏は若い在日3世で、サラムとは朝鮮語で人≠ニいう意味だそうです。私も韓国人や在日の詩友が大勢いますので、多少のことは知っているつもりでしたが、この講演録を読んで、まったく理解していないのだと衝撃を受けています。例えば作品の第1連に「民族を/無化されず」という言葉がありますが、これは無国籍者にならざるを得ない2世3世のことを指しています。第2連は在日韓国人・朝鮮人には選挙権も被選挙権も無いことの反語で、この二つとも私は知らずにいた不明を恥じます。
作品の第3連以降は理想の世界を詠っているわけですが、「むろんその地区を/住民は/全世界生命から/託されている」という卓見に驚きます。第5連の「民族教育」は、神奈川県で云えば朝鮮人学校などを指すようで、関西地区では小・中学校で民俗学級として多く存続しているようです。最終連はそれらを「実現化」しようと云っているわけですが、その真摯な姿勢に敬服します。
良い講義録と詩を読ませていただきました。いかに我々日本人≠ェ在日の人たちのことを知らないか、知らなさ過ぎるか、考えさせられました。
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