きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2005.6.29 山形県戸沢村より 月山

2006.4.13(木)

 特記事項なし。後任者への業務引継ぎは順調に進んでいますが、彼が来週急遽ドイツに出張することになり焦っています。1週間の予定ですけど、下手をすると延びるかもしれない…。それだけ引継ぎ時間が短縮されるわけです。まあ、何とかなるとは思いますが…。



詩誌『ERA』6号
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2006.3.31 埼玉県入間郡毛呂山町
北岡淳子氏方・ERAの会発行 500円

<目次>

中村不二夫/猫の独白 4
吉野 令子/冬の螺旋(裸形ノ、煉獄ノ) 6
日原 正彦/風邪ひき自転車 8
藤井 雅人/聖地 11
清岳 こう/刺繍をする・そのまた むかし 14
橋浦 洋志/虹の地殻 18
貝原  昭/とおき哀しみの地から 22
岡野絵里子/忙しい砂糖入れ 24
中村 洋子/一九八七年 古都は冷夏だった 26
佐々木朝子/風の遺言 28

抒情とは何か1 秋谷 豊/現代詩の薄明の中から 30
ユビキタス
川中子義勝/桶職 35
竹内美智代/朗読に魅せられそう! 38
吉田 義昭/燃焼の理論 40
小島きみ子/身体の(リアル)から生起される外界の(バーチャル) 42


北岡 淳子/世界に向かって 48
小島きみ子/
(mama) 50
川中子義勝/騎士と死と悪魔 52
瀬崎  祐/波止場で愛を語ること 56
田村 雅之/
Great mother・アルニカ 59
畑田恵利子/落下 62
吉田 義昭/その後の万有引力 65
竹内美智代/分身 68
大瀬 孝和/仮面 70
田中眞由美/千年の時を越えて 72

連載 日原正彦/断章T 76
編集後記 80



 分身/竹内美智代

真夏の光が 堅いつぼみを一気にふりほどいて咲いたサ
ルスベリを灼き アスファルトの道路を灼き 惜し気な
く肌を露出し闊歩する女性たちを灼いている
私は まだとろとろと眠っていた時の 明け方の電話を
反復している 「わたくしの分身に会いに行くの」と繰
り返すだけで切れてしまう低くか細い声を

高枚生のころ いつでも手が触れ合うような距離にいた
のに いつのまにか縁が途絶えた人からの三十年ぶりの
電話 繰り返すだけのあの声は 夢だったのか
こまやかな神経 潔癖で優しすぎる性格の彼女の 忘れ
ていた遠い昔の言葉が つぎからつぎと聴こえてきた

「あなただけに教えるわ 月は地球の分身なのよ 地球
が生まれたころ天体にぶつかって ちぎれて固まったの
が月なの 科学者が追求したのよ」と科学の得意な彼女
は 目を輝かせながら私に耳打ちした 「地球上のすべ
てのものに分身があるの 帰ろうにも帰れない地球の分
身の思いが人に乗り移っているの だから あなたやわ
たくしの分身もどこかにいるのよ」 声は確信にあふれ
ていた いつしか私もわたしの分身を探し始めた
あれからまもなく 人類はその月へ降り立った その時
はすでに彼女と歩む道も違い 私は分身のことなどすっ
かり忘れていた

やがて灼けつくような光もおとろえ 真っ青な空にくっ
きりと輪郭をきざみこんでいた入道雲も姿を消した 夏
と秋とが同居しているゆきあいの空のころ 「わたくし
の分身に会いに行くの」と繰り返していた人が自ら命を
断った
きっとあの 淡い昼の月に到着しただろう

 「月は地球の分身」なら「わたくしの分身」もいるのかもしれませんね。それはきっと今の自分とは違う道を歩んでいるのでしょう。歴史にifが無いように私たちの人生にもifはありません。しかしそれだけでは割り切れないものを常に感じているのも事実です。それが「分身」願望となっていると思います。
 「三十年ぶりの/電話」に「彼女」の人間性が良く表現されている作品と云えましょう。「自ら命を/断った」ほどの「こまやかな神経 潔癖で優しすぎる性格」が伝わってきます。完成度の高い作品だと思います。



詩誌『交野が原』60号
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2006.5.1 大阪府交野市
交野が原発行所・金堀則夫氏発行 非売品

<目次>
《詩》
無名人/杉山平一 1
銃口/平林敏彦 4
息をつめて/青木はるみ 6
聲の者ら/松岡政則 8
親和感少々、そして/小長谷清美 10
冬季壷中ノ原/岩佐なを 12
外す/山本十四尾 14
今朝、台所に冷蔵庫がない理由/中上哲夫 15
花火/松尾静明 16
子葉声韻−(そのままでも)/高貝弘也 18
押し花/佐川亜紀 20
草いきれ/北岡淳子 22
ソレムデ/原田道子 24
樹木人U/溝口 章 26
おみくじ/古賀博文 28
脱皮/金堀則夫 30
いずぬ!/北川朱美 32
まる/高階杞一 34
街角のペット/中原道夫 36
青空ツアー/岡島弘子 38
仕事/愛敬浩一 40
丘のコノテーション/川島 完 42
キルケゴールの宿題/望月苑巳 44
秘密/一色真理 46
沈黙/島田陽子 47
同じだと思う/福田万里子 48
静かな瞳/田中眞由美 50
約束日まで/宮内憲夫 52
ミセスエリザベスグリーンの庭に/淺山泰美 54
白砂(しらすな)のおと/八潮 煉 56
君とのこと/瀬崎 祐 58
私の好きな校長先生/大橋政人 60
せんじんくん/辻本よしふみ 62
数える/山本聖子 64
遥かな岸辺/小川英晴 66
髪を梳く/四方彩瑛 68
魔女/美濃千鶴 70
愛撫を埋める/渡辺めぐみ 72
自由が丘駅前広場/望月昶孝 74
《評論・エッセイ》
■北原白秋・・・ライト・ヴァースの源流/寺田 操 76
■金堀則夫小論 想空の結び目に立つ、星田の石づくり/田中国男 80
 *竹中平蔵氏のことなど/河内厚郎 108
 *諸国の「金堀唄」について/佐藤文夫 110
《郷土エッセイ》 かるたウォーク『ほいさを歩く(7)』/金堀則夫 112
《書評》
中原道夫詩集『わが動物記、そして人』土曜美術社出版販売/相馬 大 84
崔泳美詩集『三十、宴は終わった』書肆青樹社/片岡直子 86
日高てる詩集『今晩は、美しゅうございます』思潮社/紫 圭子 88
高階杞一詩集『桃の花』砂子屋書房/山田兼士 90
宇佐美孝二詩集『虫類戯画』思潮社/苗村吉昭 92
新延 拳詩集『雲を飼う』思潮社/星 善博 94
たかとう匡子詩集『学校』思潮社/溝口 章 96
溝口 章詩集『残響』土曜美術社出版販売/武士俣勝司 98
築山登美夫詩集『晩秋のゼームス坂』開扇堂/日下部正哉 100
佐久間隆史詩集−新・日本現代詩文庫34−土曜美術社出版販売/田代芙美子 102
西岡光秋著 詩論・エッセー集『触発の点景』土曜美術社出版販売/井上嘉明 104
原子 修著『詩論<現代詩>の条件』書肆青樹社/こしばきこう 106
編集後記 114
《表紙デザイン・福田万里子》



 まる/高階杞一

犬にもかなしみなんてものが
あるんだろうか
夜中
床に小さく丸まって寝ている姿を見て
そう思う

自分は人間とは違うんだ
お父さんやお母さんとは違う存在なんだ
と思って
ひとり
かなしく眠りにつくような時が
犬にも
あるんだろうか

お父さんにはね
あるんだよ
お酒をいっぱい飲んでも眠れない夜が
もうとっくの昔のことなのに
つい昨日のように
くやしくて、かなしくて
ちっとも眠れない夜が

 この作品は判り過ぎるほど判りやすい詩ですが、一味違うのはタイトルだと思います。「小さく丸まって」から来ています。この「まる」が「眠れない夜」に「丸まって寝ている」「お父さん」の姿も連想してしまいます。同じ意味で防御の姿勢も見えて「かなしく」なりますね。
 私の家にも犬がいて「床に小さく丸まって寝てい」て、ときどき寝言で悲しい声を出しますから、おそらく「犬にもかなしみなんてものが/あるんだろう」と思います。それを何度も目撃しながら「まる」までは至りませんでした。高階杞一という詩人の感性に敬服した作品です。



山田春香氏詩集Simon
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2006.5.1 大阪府交野市
交野が原発行所刊 非売品

<目次>
泣欲 4       都会の逃亡者 6
FUSHIGI 8  ○ 9
湯気の頂き 10    名残湯 12
オープン 14     発見 16
ベクトル 18     からす空 20
夜の騒音 22     お面 25
Color 28    三十九歳で止まった叔父 30
再起動 32      ときどき時計 34
Condition=Total 36
癖モノ 38      ☆(ニセモノの星とホンモノの記号) 40
ドーナツリング 42  塔の文字屋 42
Winter sleep 46
生命(いのち) 48   あとまわし 50
0(ゼロ) 51     report 52
境界 55       金渦(かねうず) 56
缶詰 58       シークレットボックス 60
記憶の住みか 62
あとがき 66
−表紙デザイン 山田春香



 
いのち
 生命

命を賭けるって
勇気のいることだと思っていた
だけど毎日毎日私たちは
命を賭けているのだと知った
なにかに乗って
どこかへ行くのだってそうだ
運転手は自分の命と他人の命を
いっぺんに背負っているし
乗客は命を預け
運転者は命を頚かる関係さえ生じている
たった百六十円の保険金
安いもんだ
しかしいちいちバスに乗るときに
そんなことは気にとめない
なにかをやるためには
命を賭けなくてはならないってこと
生きるって「命を賭けて」いるってこと
ひとつしかない命を
大事にするということは
ただ引き出しに入れて
保管すればいいのではないということ

人間はすでに教えてくれている

 19歳になったばかりの著者の第一詩集です。ご出版おめでとうございます。
 「毎日毎日私たちは/命を賭けているのだ」ということを「運転手」を始め「人間はすでに教えてくれている」と気付いたことは卓見だと思います。「ひとつしかない命を/大事にするということは/ただ引き出しに入れて/保管すればいいのではないということ」という見方も佳いですね。
 本詩集のうち
「ベクトル」 「お面」 Color Condition=Total 「癖モノ」 「あとまわし」はすでに拙HPで紹介していました。ハイパーリンクを張っておきましたので、合せて山田春香詩の世界をご覧いただければと思います。今後のご活躍を祈念しています。



詩誌『木々』33号
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2006.4.25 東京都小平市
小林憲子氏方・木々の会 鈴木亨氏発行 700円

<目次>
〈扉〉蛇がゆくように      菊地 貞三 1  師走見舞記………………………立川 英明 44
●詩の将来……………………………鈴木  亨 2  ひいちゃん………………………伊勢山 峻 46
 孔雀はなにを………………………伊藤 桂一 17  声…………………………………原 利代子 48
 花の幻影……………………………岩井 礼子 18  書状………………………………柳内やすこ 50
 庭のうさぎ…………………………菊田  守 19  石…………………………………宮城 昭子 52
 降る、さらさらと…………………内山登実子 20  冬の海……………………………服部 光中 54
 花鬼を………………………………久宗 睦子 21  蔦の家……………………………関野 宏子 56
 きょうこそは………………………菊地 貞三 22  新樹蔭……………………………松本 知沙 57
 春の唄………………………………比留間一成 24  尾上柴舟記念展…………………天野さくら 58
 北の海………………………………中山 直子 26  白い花……………………………石渡あおい 59
 癖……………………………………宮田 澄子 28  蝉よ………………………………石井真智子 60
 源流…………………………………細野 幸子 29  お菊塚……………………………舟木 邦子 61
 雪の日………………………………所  立子 30  くろみつの陽に…………………越路美代子 64
 お茶によせて………………………来栖美津子 31  ナポレオンの風呂………………山本みち子 66
 生きる………………………………小林 憲子 32  ひっそりと………………………岡田壽美榮 67
 六花の生まれた夜…………………川田 靖子 34  W邸にて…………………………春木 節子 68
 伝習に慣らされて…………………松沢  徹 36 ●雪の日のリス……………………中山 直子 70
 坊津の風……………………………弓削緋紗子 38 〈木の椅子)
〈書評〉エピキューリアンの含羞…石原  武 40    こどもの詩と少年詩と……菊地 貞三 73
●いとしのチャック・モール………原 利代子 42 〈編集後記)…………………………………… 74



 書状/柳内やすこ

 平城京跡の南端近くで、「小さな住宅街」が出土
したという。宮殿近くに住んだ朝廷の実力者、長屋
王の邸宅は、二百六十六メートル四方(約二万一千
坪)もあったが、この度発見された「小さな建物跡」
は、最大で六・九メートル四方(約十四坪)とのこ
と。優雅な貴族とは対照的に質素な庶民の住居跡で
ある。

 TVでは、今年もNHKの大河ドラマが放映され
ている。歴史に名を残した人物たちの物語を、現代
の役者たちが演じ、大衆が観る。
 私は、数百年〜千数百年もの間語り継がれた偉人
の一生に思いを馳せる。一方、歴史の舞台裏でつま
しく生きた無数の人々の生をも想う。

            うらべ おしお   たべのすくね
 正倉院文書の中には、「占部忍男」や「田部宿禰
くにもり
國守」という下級役人らが、役所に借金を申し込ん
だ書状が残っているという。彼らは、「小さな住宅
街」の住人であったろう。借金の書状にのみ、生き
た証を残していった人。

 私もそのように生きられたら、と思う。平成元年
十一月、住宅金融公庫及び勤務先のS株式会社より、
計二千五百八十万円の住宅ローンを借りたサラリー
マン、の妻。
 それだけの記録を後世に残す一生も、また良し。

 注 「読売新聞」'05・12・3付記事より。

 「平城京」時代に「借金の書状にのみ、生き/た証を残していった人」と「計二千五百八十万円の住宅ローン」「それだけの記録を後世に残す」「サラリー/マン、の妻」の対比がおもしろい作品ですが、「歴史の舞台裏でつま/しく生きた無数の人々の生」は何も変っていないのだなと改めて感じますね。そんな「一生も、また良し」とする作者に敬服します。人間の関係とは支配と被支配でしかないのかと感じているこの頃、胸にストンと落ちた作品でした。




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