きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2006.6.11 京都・泉湧寺にて |
2006.7.28(金)
小田原の画材店に行って額を買ってきました。額を買うなんて10年ぶりぐらいかもしれません。31日から始まる日本詩人クラブ詩書画展の出品作品を額装します。絵は先日購入した尾崎尚寿さん作品、詩はそれに合わせて20年前に作った「定性的追跡学入門」を遣うつもりでいます。会期は7月31日から8月6日まで。場所は銀座8丁目の「地球堂ギャラリー」です。私は担当理事として毎日出勤≠オていますので、よろしかったらおいでください。
○詩誌『二行詩』17号 |
2006.7.29 埼玉県所沢市 伊藤雄一郎氏連絡先 非売品 |
<目次>
春宵幻想・夜桜と仁王像と/大瀬孝和
暮らしの妖怪(尻とり)/高木秋尾
昆虫抄(5)/布谷 裕
夏のドラマ/伊藤雄一郎
ゲスト・コーナー
<包丁>他/濱條智里
ハングル・イン・ザ・四字漢字/全 美恵
投稿作品
八月の旅/青柳 悠
落葉樹林/渡辺 洋
ランボー/根本昌幸
二行連詩の試み
お便りコーナー
後書き
濱條智里
<包丁>
トントントンときゅうりを刻み
トントンと伸びてきた指を切り落とす
<漬ける>
すきまなく白菜をならべて最後に
重石の下にすべり込んだ
<合図>
モールス信号のように
誰かが私の足を使って連絡をとっている
<蛙>
耳栓の隙間をつたう声
部屋じゅうにあふれて
<父>
アルバムの整理を始めた父の
背中の稜線がぼやけて見える
ゲスト・コーナーのトップを飾る作品です。総題は付いていませんでしたから個別の作品として鑑賞しても良いと思います。<包丁>の「トントン」の組み合わせが面白く、<漬ける>では「最後に/重石の下にすべり込んだ」のは「私」だろうと推定できます。<合図>では久しぶりに「モールス信号」という言葉に出会いました。「モールス信号」はプロの世界では姿を消し、今はアマチュア無線のみで残っており、いずれ死語になるでしょう。<父>はいずれ自分の姿にもなると思え、ちょっと寂しい詩ですね。それぞれに楽しめた作品です。
○新・現代詩文庫40『米田栄作詩集』 |
2006.8.5 東京都新宿区 土曜美術社出版販売刊 1400円+税 |
<目次>
詩集『鳩の夜』(昭和十二年)より
慕情・10 続慕情・10
秋風を剪る鋏・10 翳・11
昏れる頤・11 円塔より・11
白夜・11 戯れて・12
鳩の夜・12 らりるれろ 山本春次郎に・13
紙と繭と・14 静かな時間・15
仮死・16 光風の奥・17
藁の世界・18 点心・19
タンポポ・19 壁画 その模写・21
底辺詩抄・22 蝶が白い皿と遊んでゐる・23
マ・ノン・トロッポ・24 掌の音楽・25
詩集『川よ とわに美しく』(昭和二十七年)より
第一部
川よ とわに美しく その一・26
川よ とわに美しく その二・27
川の鎮魂歌・27 甦る川・28
永遠の川・29 静脈の川・29
星の歌・30 復帰の地・31
川の戯れ歌・31 鄙歌・32
荒廃に立ちて その一・32
荒廃に立ちて その二・33
荒廃に立ちて その三・33
現幻・34 川の碑・35
川のなかの旗・35 川の声・35
翠町仮寓・36 家族 その一・37
家族 その二・37 海から見た広島・37
雲の逕・38 瓦礫の逕・39
第二部
木の実が熟れるように わが広島よ・39
光 川にみち・41 夕映えいろのおん身らは消えない・41
新オフェリヤ・42 川の曼陀羅・42
晩鐘偈・43 相生席・44
川燃ゆ・44 川明かり・45
川の華
その一・45 川の華 その二・46
川の華
その三・47 川の華 その四・47
月の汐・48 川霧・48
美しきものを咎め給うな・49
美しければ逞し・49 川の雪・50
川匂う・50 川化粧・51
川の空・52 川流転・52
釈哲道童子・53 天秤の図・54
原民喜詩碑 昭和二十六年十一月十五日 除幕式・55
詩集『未来にまでうたう歌』(昭和三十年)より
第一部
天からみた広島――機上より・56
原爆慰霊碑・57 フェニックス・58
スフィンクス・59 泥濘浄――流川町にて・60
巷塵・61 いまだ、小さきサルスベリ――わが街の並木よ・61
無言歌・63 八月六日の砂・64
城趾で・65
第二部
荒墟に佇ちて――拾遺・67
八月歌・67 昇天・68
峠三吉追悼・69 泉のうた・69
詩集『八月六日の奏鳴』(昭和三十六年)より
八月六日の奏鳴
一身抄・77 木枯し・78
火を噴く砂・79 過去帖十二冊・80
人間の砂・82 ネール・インド首相に――一九五七・一〇・九・83
千羽鶴――原爆の子の像に・84
広島鼻陀羅
死と生の架け橋・87 平和の手形・87
ラ・パンセ・88 路傍のみどり・89
わがまちの空・90
詩集『不一の花々』(昭和四十人年)より
拾遺草々
春宵・91 宍道湖畔・92
大三島附近 ・92 燧・93
くり返えしてはならぬことが……・94
三角州掌篇
太田川上流・95 相生橋附近・95
本川橋橋畔・96 横川橋にて・97
可部附近・97 御幸橋・98
長寿園・98 常盤橋にて・99
不一の花々
てつどうぐさ・100 コスモス・101
はげいとう・102 まんじゅしゃげ・102
りんどう・103
詩集『デルタ曼荼羅 素吟』(平成四年)より
碧落抄
碧落 T・104 碧落 U・105
碧落 V・106 碧落 W・108
碧落 X・109 碧落 Y・111
碧落 Z・115 碧落 [・116
碧落 \・118 碧落 ]・125
ののの節・129 碑銘余話・130
囀り・131 溯る・133
川とわ…… メモランダム・
拾遺
鬼のいろいろ・136 明滅・139
風よ 未明に・140 妙法 うしろかげ・141
古調借景・142
エッセイ
平和と文學・146
追悼文の取消し――中国詩人貴君は生きていた・147
詩への道・150
原爆に負けなかった ヒロシマの七つの川を賛える・152
難啣灯盞走――トリテイセンヲフクミテハシル・153
解説
安藤欣賢 米田栄作と詩の仲間たち・156
深澤忠孝 ヒロシマをひとすじに生きた、志の詩人・161
年譜・168
釈哲道童子
その子の名は哲郎
二つだった
原爆の焼野が原を
幾日も幾日も
一カ月も
二カ月も
私は探し歩いたが
その子の骨さえ見つけ出すことができなかった
今でも私は想うのです
今でもその子はどこかで生きているのではなかろうかと
愚かにも私は想うのです
あの日の茸雲(きのこぐも)に乗っかって
天へ昇ったのだろうか
それとも花粉(バクテリア)のように
川の中へ散ったのだろうかと
一生涯 私は想うのです
この町の天と川とが
まっ青くなってきたのは
その子や
その子のような天使たちが
たくさん たくさんいるからだろうと
私 想い浮べるのです
その子の右腕に
小さな青い痣が一つありました
鶉豆ぐらいの青い痣がありました
その子は
それだけを私に残してくれました
それだけが私の瞳に滲みております
一生涯私は想うのです
2002年8月に94歳で亡くなった被爆詩人・米田栄作の詩集抄録です。広島碧落忌の会の米田栄作詩集刊行委員会による出版で、1967年には広島詩人協会会長も務めていたことから広島では大事にされていた詩人だなと思います。略年譜によると1981年には三枝成章作曲で男声合唱組曲「川よ とわに美しく」がNHKで初演、芸術祭優秀賞を受賞していることからご存知の方も多いかもしれませんね。
紹介した詩はその『川よ とわに美しく』という詩集の中の作品です。「哲郎」は米田栄作の三男、同時に義祖父母も爆死したようです。「愚かにも私は想うのです/あの日の茸雲に乗っかって/天へ昇ったのだろうか」というフレーズに子を爆死という形で亡くした父親の無念さを感じます。忌むべき「茸雲」でさえも「天へ昇」る手段と「想う」米田栄作の心境が伝わって来る作品です。
詩集中の「川よ とわに美しく その二」はすでに拙HPで紹介していました。ハイパーリンクを張っておきましたのでご参考になさってください。米田栄作研究には欠かせない一冊です。
○長津功三良氏詩集『影たちの墓碑銘』 |
2006.8.6 山口県岩国市 幻棲舎刊 2000円 |
<目次>
T
影たちの墓碑銘 8
U
いわくに、ひかりの空襲は八月十四日 でした 60
劣化ウラン弾の撒かれた処 64
パー 68
墜ちた日 72
骨を塗る 76
悪魔の遺産 78
ひろしまの空はいまも碧いか 86
また夏が来る 90
骨を砕く 96
そして誰も居なくなる 102
六十年 106
裂けた空の向こう側 110
空はつながっている 114
死神の勝利 118
●<制作メモ>主な参考文献/主な聞きとり者 123
●あとがきにかえて(叙事の試み) 124
●跋/吉川 仁 131
払暁、ソ連対日宣戦布告。満州(中国東北部)東西から国境を侵犯。南方
戦線へ主力を転用していた関東軍はもろくも全戦線において崩壊。荒野に
多くの民間人が取り残された。
この日午前十一時頃、九州・長崎に原子爆弾(ファットマン)投下され、
広島と同様瞬時に壊滅。
多くの一般市民が犠牲になった。
ひろしまでは
とまったじかんのなかに
しが みちあふれ
もう ひとでなく
ただ かすかに いきをしたり うめいたりする
ぼろぼろの にくたいのざんがいでしかない
かつて ひとであったものたち
おとこも おんなも こどもも としよりも
みわけがつかず
ぱんぱんに はれあがり
よろめき いつしか いきをしなくなる
ずるむけの にくの かたまりが よろよろ あるいてくる
あかむけの にくの かたまりが ふらふらと よろめいている
おとこかおんなか としよりか わからない
こどもは すくない
おじさん みずをちょうだい たすけて
おい みずをくれ みずをくれ
まなつのたいようが
ようしゃなく てりつける
火が 燃える
風が 吠える
黒い雨が 降る
ひろしまがなくなった
原子爆弾は
墜ちた
のではなく
墜とした のだ
神ではなく
戦争の 狂気のさなか
人間が 墜とした のだ
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「劣化ウラン弾」も含めた核爆弾の悲惨を収録した詩集です。なかでも詩集タイトルにもなっている「T」の「影たちの墓碑銘」は50頁に及ぶ壮大な叙事詩です。ここではその最後の部分を紹介してみました。「原子爆弾は/墜ちた/のではなく/墜とした のだ」というフレーズに詩人・長津功三良の怒りの原点を感じます。
この作品の一部が「影たちの遠く暗き巡礼道 U」として発表されており、拙HPでもすでに紹介していました。2005年1月8日の部屋に載せてありますのでご覧になってください。
また詩集中の「いわくに、ひかりの空襲は八月十四日 でした」「ひろしまの空はいまも碧いか」「六十年」「裂けた空の向こう側」もすでに紹介しています。ハイパーリンクを張っておきましたので合わせてご覧いただければと思います。原爆投下61年目を前にして、改めて読んでほしい詩集です。
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