きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.9.16 群馬県榛東村「現代詩資料館・榛名まほろば」にて



2006.10.24(火)

 無線LANの調子が悪いので、パソコンショップに行って20mのLANケーブルを買ってきました。無線LANはルーターやパソコンの位置を変えていろいろ試したのですが、電界強度、通信速度ともに不安定で、結局、ダメと判断しました。ルーターから直線距離10mは難しいようです。もう1台のパソコンは5mほどで、こちらは問題なし。遠いところほど無線LANが欲しいんですけどね、残念。

 拙宅はほとんどの部屋に天井が無いので、ケーブルの引き回しは楽なんですけど、逆に見た目に気を遣ってしまいます。以前の電話線を外して、その跡にLANケーブルを引くことになるのですが、電話線よりLANケーブルの方が数段太い。おなじみの青い色はやめて灰色のケーブルにしましたから、白い漆喰の壁に何とか馴染みました。
 通信は快調です、、、当り前ですけど。無線LANでイライラするよりよっぽど心理的に良いと感じています。これで少しはいただいた本のお礼が早くなるかな? 呑み会が多くて遅れることもあるなぁ。その場合はメシより好きなお酒とご理解いただき、ご海容のほどを。



司由衣氏詩集『西境谷団地から』
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2006.10.31 東京都東村山市
書肆青樹社刊 2400円+税

<目次>
 T
エデンの園 10               散策道 16
売家の庭  20               花折れ 24
 U
ブランドバッグ 30             雨に打たれたエプロンが… 34
美しい人 38                ある朝の顛末 42
小さなトラウマ 46             父の真意 50
賭け 54                  エンドレスな 58
 V
タイム・リミット 64            しがらみ 68
鏡の女 72                 椅子 76
うちの男はん 80              滅びゆく男 84
路暮れ 88
 W
風呂敷包み 94               ぼくでごめんね 100
天使の幾何学 104
 X
雨宿り 110
.                晩秋 116
潮時 124
 Y
消去法で死の種子を 128
.          ランゲルハンス島 132
天使のようにホームレスを 136

跋 乙訓幻影 山村信男 142
.        あとがき 146
装画・装幀 史麻雅子



 路暮れ

堀川通りを
幼い娘の手を引きながら
何処へ いったい何処へ行けば…
怒りも 悲しみも
胸のうちでとっくに飼い慣らされて
今更あの人を責めるつもりはないけれど

  好きな酒がもとで死ぬなら本望だと口癖の亭主は
  この夏 アルコール性肝硬変で若死にした
  息子だけが生き甲斐の姑は
  息子を死なせたのは嫁なのだと世間に言いふらし
  あとを追うように心筋梗塞で死んだ
  残されたわたしは
  胸に挿した弔花の落ちるのを待たずに
  ローン付きのまま家を売り
  飲み歩いた亭主の一ケ年分のつけと
  借りた葬儀代を支払うと残りは僅か八万円足らずで
  間借りさえ出来ずに
  秋も深まり

そうよ責めるつもりはないけれど
この切り岸を行くような危うい母子に誰がした

いつのまにか三条通りに入り込み
ふと目についた求人広告に誘われて
とある飲食店の門口に立つ
おさげ髪の娘後ろ手に隠し
−あの住み込みで雇ってもらえませんか
いんぎんに会釈した瞬間
隠した娘が手振りほどき人目も憚らずしゃしゃり出て
−パパここでお酒ジュース飲まはってん

脱兎のごとくとはこのこと
娘を脇に抱えこむや路地へ逃げ込み
それから姉小路通りをつたって
おめおめと元の堀川の通りへと戻っていく
わたしの腕のなかで
いつのまにか眠ってしまった娘の寝顔が
なんと酔いつぶれて寝てしまったあの人そっくりで
おもわず洩らす
−この子生かすの それとも殺すの あなた!

 司さんの作品は『都大路』『呼吸』『すてっぷ』などでたくさん拝読してきましたから、すでに詩集をお持ちだと思っていましたら、これが第一詩集です。ご出版おめでとうございます。詩集を読んで、記憶に残っている詩が次々出てきました。すでに拙HPで多くを紹介していました。
「売家の庭」 「花折れ」 「エンドレスな」 「鏡の女」 「ぼくでごめんね」 「潮時」の6編です。詩集では若干改定していますが作品の基本は変わっていません。ハイパーリンクを張っておきましたので合わせて司由衣詩の世界をご鑑賞いただければと思います。

 紹介した作品は、あくまでも詩作品ですから現実と同じと捉える必要はないと思います。語り口の軽妙さの裏に潜む人間観察の鋭さに惹かれました。「幼い娘」も「姑」もさり気ない中にその像が立ち上がってきます。「亭主」も憎めない存在として映りました。何より「わたし」のバイタリティーには敬服です。
 それにしても酒呑みの端くれの私には耳が痛い作品です。「アルコール性肝硬変」にもならず「一ケ年分のつけ」もありませんけど、「亭主」の「口癖」はよく分かります。妻子の存在を忘れて呑むなんて毎度のことですからね…。
 今後のご活躍を祈念しております。



季刊詩誌『地球』142号
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2006.9.20 さいたま市浦和区
地球社・秋谷豊氏発行 1400円

<目次>
特集 詩と音楽の美的体験
親友Sの葬送に―忘じ難き交響曲…石原 武…8 ニュー・ウェーブ発生の現場から…谷口ちかえ…10
ドビュッシーと象徴派の詩人たち…中島登…12 私の音楽風景と詩…鈴木豊志夫…14
音楽にはかなわない…島田陽子…16      詩と音楽に関わる日々…李 承淳…18
音とリズムと文字と…大石規子…20      頭の中を音楽が駈けめぐる…斎藤正敏…21
バッハを語る…川中子義勝…22        はるかな日、レニングラードで…藤坂信子…23
思い出の人々にまつわる曲目…槇さわ子…24  困ったときの「ボレロ」頼み…安英晶…25
言霊の音…結城 文…26           予期せぬ中に曲となり…安森ソノ子…27
リズムとしての「詩と音楽」…大森隆夫…28  言葉でも、言葉でなくても…木村ララ…29
なぜ、好きか…菊池唯子…30         縄文ヴィーナスの影…山中真知子…31
童心にかえる…浅井裕子…32         最初の出会い…秋山公哉…33
中学生の音楽から…塩田禎子…34       詩が歌になる時…白川 淑…35
そこにあるもの…ケネス・パッチェン…36
同人の詩(1)
氷河の崩壊−「飛天」連作の一篇…福井久子…37 墓園をゆく−エルンスト・バルラッハ頌…川中子義勝…37
宝くじ…鈴木正樹…39            桑の木から生まれたよ…橋本福惠…40
爽快…辻田武美…41             解体屋…宇佐美敦子…42
離陸…サーカー和美…43           ヒュアキントス…山中真知子…44
書きおき…柳原省三…45           気体は縮みながら広がりながら…木村和夫…46
紫大明神…高橋絹代…47           おにぎりとプルーン…伊集院昭子…48
だまっているこの人…堀込武弘…49      会葬…清水榮一…50
揺れ…秋田文子…51             波は虹の掛橋…梁瀬重雄…52
何かいい事ないか子猫チャン…小林由利子…53 小学生によるロックンソーラン節(運動会)…比留間美代子…54
映画館にて…中村傳一…55          雨に濡れている…植木信子…56
春の雪…河内さち子…57           呼ぶ…下村和子…58
柳行李と革命…羽田敬二…59         旗の波…花籠悌子…60
染みる手…里見静江…61           バラが呼んだ…石野茂子…62
朝顔…松下美恵子…63            独り暮し…四釜正子…64
おてんば…奥山正江…65           無言…吉田ゆき子…66
HOKUSAI…森 三紗…67        故山中智恵子氏に捧げる哀悼詩…野間亜太子…68
人工衛星…三好由紀彦…69          見てしまったもの…みくも年子…70
冬…中原茶津菜…71             天池からのロープウェイ…小林登茂子…72
馬事公苑 misic by Ayu "Tear of heart"…三田 洋…73
「海幻想」より あお…金沢智恵子…74     源氏物語絵巻…山崎佐喜治…75
企画展「秩父 文学の旅」記念講演 秋谷豊『遥かなり秩父の山と谷と村』によせて
秩父 遠い山 近い山…黒羽英二…134
.    秩父・あこがれと闇の山塊…鈴木豊志夫…136
地図を書く…谷口ちかえ…137
.        「遥かなり秩父の山と谷と村…塩田禎子…138
現代詩時評
今、詩人は「うたって」いるのだろうか?…鈴木正樹…184
同人の詩(2)
生の息吹…浦田恵美子…90          青磁の欠片――韓国で…大石規子…91
売り渡された村…北原千代…92        ひびく…木全功子…93
夜桜…香野広一…94             携帯電話…山路豊子…95
友達…金子たんま…96            レモン…池上耶素子…97
歩いてゆこう…結城 文…98         春の雷鳥…鵜飼攝子…99
「船乗り込み」とう襲名披露…青 博章…100
.  ルーツの記憶…小閑 守…101
雨の日に…山本 衞…102
.          東シナ海の向こうで…安森ソノ子…103
ジャックと豆の木…槇さわ子…104
.      天空の虹(県立上尾精神病院にて)…金子万里子…105
「おでん」……佐久間利洋…106
.        遺言…松井郁子…107
回るベルトコンベアー…坂本公子…108
.    七ツの井戸を渡る籠…秋本カズ子…109
天女 胡天西方詩鈔…木下ひとし…110
.    あるけおろじい…中原秀雪…111
伝言板…石島俊江…112
.           螢川…水橋 斉…113
アルハンブラにて…水崎野里子…114
.     ぼうけん…吉永素乃…115
月光…藤坂信子…116
.            花びらの頃…水木萌子…117
捨て身…関口隆雄…118
.           とまらざる日の…渡邉那智子…118
風鈴…大森隆夫…120
.            賀茂のまつり…白川 淑…120
青空あるいはモスクカシュガルにて…秋山公哉…122
  水源…桜庭英子…124
秋の手…浅井裕子…124
.           木漏れ日…森野満之…125
故郷の畦道…北川山人…126
.         美しい言葉が頭の中を…斉藤正敏…127
空と手をつないで…名古きよえ…128
.     傷…島田陽子…129
風の青い手…香山雅代…130
新同人の詩
神がみの峰…林 哲也…180
.         徘徊のあとさき…西村義博…181
特集 詩と音楽の美的体験
組曲「良寛」のこと…新川和江…76      楽器の記憶…秋谷 豊…78
同人手帳
ケンブリッジ−ロンドンの一年を振り返る…熊谷ユリヤ…80
温もりだらけの大都会…サーカー和美…81
同人の詩(3)
集合「上州紀行・前橋」…鈴木豊志夫…140    悲しみ…富田鈴子…141
新雪 冬の薔薇 日本の鶴…藤井慶子…142
.  神も畏れる…井上朝之…143
葉桜…村田寿子…144
.            カーキ色の戦闘帽を冠せれば…泉 渓子…145
夢…渡辺眞美子…146
.            春道…都留さちこ…147
黄昏の駅…ささきひろし…148
.        時間が欲しい 阿呆韻律…森田 孟…149
幸せからの答え…岡本雅子…150
.       一粒の真珠のむこうに…田井淑江…151
水色…桜井マリ子…152
.           小品四篇…瀧 葉子…153
朝…梅本賢次…154
.             焼きつける…菊池唯子…155
紅葉とは…前川整洋…156
.          ムサシトミヨ…塩田禎子…157
はなぞの…木村ララ…158
.          居留守…久保克彦…159
別れてしまった顔…木下博子…160
.      青草の波…浪本琢夫…160
カーサ・ヴエッキオのすみれ…吉川悠子…161
. クレーのかぼそい暗褐色の網目の上…喜 春子…163
午前九時十五分・潮風のバラード…中島登…164 茉萸−PARTU…刑部あき子…167
春を待ちながら…高原木代子…168
.      早春…人羽南鳳…169
ゆめ(の庭から…安英 晶…170
.       恵那山トンネル…中川 波…171
さくら…石井眞弓…172
.           叔母の残像…向田若子…173
春の挽歌…山本美代子…174
.         最後の同窓会…長田一枝…174
秋の家…谷口ちかえ…176
.          ぬくもり…原口久子…177
夏日殺す…浜江順子…178
.          阿仁の風…佐々木久春…179
二十一世紀の秘歌…秋谷 豊…182
企画展 秩父 文学の旅 フォトアルバム…131
海外の詩
ジャン・コクトーの詩…中島 登訳…83
林檎の悲劇 鴉の最後の抵抗 テッド・ヒューズ作…福井久子訳…85
ビショップに捧げられたロウエルの詩の二篇…森田 孟訳…86
エルマ・D・フォタイカン現代アメリカ・フィリピン系…水崎野里子訳…88
報告 2006・6月『地球』現代詩研究会…186
地球情報…188
編集後記
斎藤正敏…189 大石規子…189 中島 登…189
鈴木正樹…190 小林登茂子…190 鈴木豊志夫…190
結城 文…191 山中真知子…191 谷口ちかえ…191
川中子義勝…192 石原 武…192
表紙・とびら/モーリー・ケニアリー(オーストラリア)
本文カット/鈴木豊志夫



 黄昏の駅/ささきひろし

夕暮れの横浜駅ホームに立つと
東京湾からのかすかな潮のにおいがする
潮のにおいはレールのかなた
千二百キロ先の北の海に私をいざなう

緑豊かな石狩平野を北上し
白樺林の山奥へと列車はつきすすむ
やがて蒼い日本海の海岸線が浮び上がり
赤灯台の港に吸い込まれるように滑り込む
留萌本線終着駅 増毛
そこが私のふるさとの駅だ

かつては鰊漁で栄えた駅
鰊の乾いたウロコだらけの貨車で一杯であった
今は乗降客も少なく無人駅
風雪に耐えた木造の駅舎だけは昔のままだ
毎年 廃線がささやかれているという

私の帰省を心待ちにしていた父母の姿はなく
岬のみえる丘に ひっそりと眠っている
出迎えるものもなく
夕闇に帰巣するカモメの甲高い鳴き声だけが
幼馴染の浜言葉のように心に響いてくる

夢ふくらませた少年の始発駅は
やがて夢しぼむ黄昏の駅となり
遠いとおい記憶の中でしか
温かく出迎えてくれるものはいない

 郷愁を誘う作品です。「横浜駅」と「留萌本線終着駅 増毛」との「千二百キロ」という距離感も郷愁と関わりがあるのかもしれません。私も北海道生まれですから、この距離感には現実味を感じます。「幼馴染の浜言葉」という詩語も佳いですね。ただの田舎言葉ではない力強さをイメージします。荒っぽい「浜言葉」を捨てて「東京湾からのかすかな潮のにおい」を嗅ぐだけになった都会の生活。「夢ふくらませた少年の始発駅」が立ち上がってきます。ふるさと「増毛」に拘る詩人が一回り大きくなったことを感じさせる作品だと思いました。



詩誌『独楽』63号
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2006.10.1 千葉県船橋市
寺田弘氏方・独楽の会発行 非売品

<目次>
菊田 守/蚊 4              金子秀夫/桜 8
佐野千穂子/秋の毛氈 12          原田道子/咲きはい 16
相良蒼生夫/梅雨のころに 20        宗美津子/わたしの守り桜 24
斎藤正敏/神の歩行 28           菊地貞三/おまえに 32
寺田 弘/山の湯 36

中村不二夫/高齢社会の詩人群像 39     寺田弘詩集『三虎飛天』評(菊田守編)43
再出発のこと 寺田弘 47          表紙・寺田幸三



 山の湯/寺田 弘

暮れかかった山の湯の
むらさきに染った雲の果肉に
ぼんぼりのあかりが点った。

外は桜の花びら
花の呼吸が枝にまつわり
甘い声を洩らした。
谷底から吹き上げる風に
螢の媚態で花は舞う

鯉のあらいに 野菜の天ぷら。
鍋物の夕食に満足する。
飾らない田舎の食卓に
疲れた心が解けてゆく。

川向こうの部落を縫って
電車が二輌
重い音を残して消える。

部落の灯りが瞳のようにまばたく。
風呂に入る
窓の湯気と揺れるさざ波に
上弦の月が小舟のようにゆれていた。

隣の女湯の若々しい声に
舞う花の匂いがした。

明日は
また混沌の東京へ戻る。

      詩集『三虎飛天』より転載

 前号で同人が2人になってしまたった『独楽』ですが、その後新たに7名が加わり再出発成った号です。今号では昨年11月に刊行された寺田弘さんの詩集
『三虎飛天』の特集となっていました。この詩集は拙HPでも紹介しています。ハイパーリンクを張っておきましたのでご参考になさってください。
 紹介した作品はその『三虎飛天』から転載されたものです。「混沌の東京」を離れて「山の湯」でのんびりと過ごす風情がよく出ていると思いますが、それ以上に「むらさきに染った雲の果肉」、「花の呼吸が枝にまつわり/甘い声を洩らした」などの詩語に瞠目させられます。寺田さんはこの作品をおそらく90歳でお創りになったと思います。詩に年齢は関係がないという見本のような作品と感じました。勉強させていただきました。



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