きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.1.22 爪木崎・水仙群生




2008.2.8(金)


 
拙HPの今後の運営について

 拙HPの更新が2ヵ月近い遅れになっていて、いただいた詩誌・詩書への御礼もそれだけ遅くなっています。まことに申し訳なく、ここで改めてお詫び申し上げます。
 ご覧になっている皆さまからも多くのお叱りや励ましをいただいています。その中に村山情報に期待しているのに、タイムリーでなくなった≠ニいうご意見がありました。

 もともと拙HPは、いただいた詩誌・詩書を紹介するという目的で開設しました。それだけでは私自身が物足りないので、日記の体裁をとりつつ詩界のイベント情報や参加した感想文を載せてきたという経緯があります。前出の村山情報≠ヘ、謂わば従のつもりだったのが、そうではないということを言っているわけで、ちょっと考えさせられました。実は私にとっても2ヵ月も前のことを思い出しながら書くのは、結構シンドイのです。もうとっくに過ぎたことだからと、多少の手抜きがあったことも否めません。

 
そこで今後は、イベント情報や感想文だけ、できるだけ早めに載せることにしたいと思います。
 それだけを先に日記に書いて、本来そのあとにすぐ来るべき詩誌・詩書の紹介は後日に書く、というスタイルです。この方式のデメリットは、詩書の紹介がさらに遅れるということです。もちろん今まで通りタイムラグの縮小には努力していきますが、10年近い運営の中で初の試みとしてやってみたいと思います。皆さんのご理解をいただければ幸いです。

     2008.03.24記



蒼わたる氏詩集
『ふりかえり
−ゆめ・うつつ−
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2008.1.31 岡山県岡山市 和光出版刊 1500円+税

<目次>
T
この世はクリスタル 008           紙魚 014
枯葉 018                  汗 022
首飾り 028                 忘れ去られていた祠 032
藍い楽園 序 036              藍い楽園 2 040
一つの風景−忘れられていたもの− 044
U
きらら きらら 050             調律師 054
台風二十三号 058              いのち 062
鼓動 066                  涙した瀬戸の夕 070
V
願いを込めて 076              みどり燃える 082
十階の住人 086               下弦の舟 090
ペット 094                 雲 1 098
雲 2 102



 十階の住人

一階の住人が十階に移住する
四方が丘に囲まれ 大地を見下ろす生活が始まる
窓を開けきると
夕日がかなたの山に沈んでゆく
山に向かって延びる川に夕日が映え
川に沿って走る道に渋滞する車の屋根に夕日が乱反射する
茜色が丘の陰に吸い込まれると
周囲は暗紫色に変わる
地上は一斉に車のテールランプが赤となり
二つの赤目の列の移動が点線となる

晴れた夜は星座がくっきり輝き
ギリシャ神話が星の瞬きと一緒に降る
道の両側に点在する家々の灯も地上の星となる
ゴルフ場の灯がいやに明るい
ベランダから見る夜景は決してワンダフルではない
が 釜山や横浜とは違う心休まる夜景でもある

単調だが夕日の沈む位置が少しずつずれる
東に月を見るのも面白い
同じ夕日の景色はない
同じ夜空もない

姉が来た
東京へ帰る際こう言った
朝日が昇るのを見ることもしなさい

 4年ぶりの第3詩集です。見返しの裏に「父、月江(行雄)に捧ぐ」との献辞もあり、発見された父上の版画に刺激されて出来たもののと「あとがき」にはありました。各章の冒頭にその版画が描かれていて、表紙の絵もその一部のようです。
 紹介した作品は「十階に移住」した作中人物の観察力鋭い視点に魅力がありますけど、最終連が佳いですね。結局、「夕日」や「星座」の「夜景」しか見ていなかったことが判り、弟の生活を知り尽くしている「姉」の言葉の軽妙さと重さを同時に感じさせます。
 本詩集の
「紙魚」は拙HPですでに紹介しています。ハイパーリンクを張っておきました。初出から若干の改稿をしていますが、合わせて蒼わたる詩の世界をお楽しみください。



内藤喜美子氏詩集『落葉のとき』
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2008.2.15 東京都文京区 近代文芸社刊 2000円+税

<目次>
金木犀 7      挑む 9       葛藤 12
落葉のとき 14    体操教室 17     猛暑 20
五感 22       暮色 25       クロスワード 28
歯根からの発信 31  表示誤り 34     リサイクルの旅 37
海の怒り 40     さらしもの 43    捨てること 46
拝啓パソコン様 49  傷痕 52       突破する 55
白い鳩 58      向日葵の記憶 61   鍵を掛ける 64
紅葉のライトアップ 67   藍染め 70      からくり 73
命の鎖 76      お札のひとりごと 79 蓋を閉める 82
蝶の幻想 85     孫・まご・悠力
(ゆうり) 88 落日 91
失われたもの 94   鬼畜ども 97     山をつくる 100
雀たちのレクイエム 103  釘を打つ 106     美徳のゆくえ 109
狼煙 111       分岐点 114      花を活ける 117
どくだみの歌 120

跋−内藤喜美子詩集『落葉のとき』のことなど 長津功三良 123
あとがき 135
装幀 伊藤直子



      
ゆうり
 孫・まご・悠力

もったいないとか
いやだとか
めんどうくさいとか
そんな言葉は婆
(ばば)の辞書にはない
可愛さだけを幾重にも重ね
着膨れている

無責任な愛情を
紡ぎ続ける婆の糸は長く
あなたをぐるぐる巻きにしてしまう

でも
曇りのないその眼の泉に
裸で飛び込み
一緒に泳ぐのは
やっぱりパパとママ

婆は岸辺にいて
糸の端っこを引き寄せ
ときどきあなたを魚のように
釣り上げる

そして剥がした鱗を
こっそり握り締め
あなたが一枚だけ脱いだ洋服の
ポケットに潜ませる

バイバイと
帰っていくあなたは
パパとママの安住の船に揺られて
婆の巻きつけた糸など手品師のように
いとも簡単にほどいてしまう

 7年ぶりの第5詩集です。冷静な批評の詩が多い中で、紹介した詩は異色の作品です。孫をうたった詩にはロクなものがない、とは詩界の通説のように思うのですが、この作品は違います。「婆」がどんなに「無責任な愛情」で「あなたをぐるぐる巻きにしてしま」っても、「一緒に泳ぐのは/やっぱりパパとママ」。「婆の巻きつけた糸など手品師のように/いとも簡単にほどいてしま」います。この作品には孫への惜しみない愛情と、取り残されてしまう哀切の両方が描かれています。孫を書いた詩の中では稀有な作品だと云えましょう。そこを見抜く力が他の作品にも溢れている好詩集です。
 なお、本詩集中の
「体操教室」「お札のひとりごと」はすでに拙HPで紹介しています。ハイパーリンクを張っておきましたので、合わせて内藤喜美子詩の世界をご鑑賞いただければと思います。



詩誌『花』41号
hana 41.JPG
2008.1.20 東京都中野区
菊田守氏方・花社発行 700円

<目次>
評論
私の好きな詩人(4) 世界の不在を視た詩人 ――J・シュペルヴィエルをめぐって/宮沢肇 22

沸点/沢村俊輔 6             遠花火/湯村倭文子 7
左見右見市立只野鼠中学校校歌/狩野敏也 8  滑り台光り申し述べるの図/峯尾博子 9
象/秋元 炯 10              月蝕/酒井佳子 12
落花生/飯島正治 14            傾斜/原田暎子 15
波/呉 美代 16              脱皮/菅沼一夫 17
通り雨/篠崎道子 18            夕映えのひつじ雲/川上美智 19
わが暦日/柏木義雄 20           約束/坂東寿子 26
晩夏光/青木美保子 27           ドングリ/小笠原勇 28
たかり草/都築紀子 29           遠き軍旅/高田太郎 30
秋海棠/水木 澪 31            年寄りの寝言/馬場正人 32
曲淵/中村吾郎 33             絹の糸/佐々木登美子 34
追われる/甲斐知寿子 35          見知らぬ景色/清水弘子 36
赤い橋へ/北野一子 37           あきらめぬ/和田文雄 38
眠が潰れる/石井藤雄 40          笑うかぼちゃ/平野光子 42
ボナル音/田村雅之 49           柏崎 番神岬/宮崎 亨 50
おでこの効用/鈴木 俊 52         花さがし行/神山暁美 53
晩秋/鈴切幸子 54             読経/佐久間隆史 55
ちょっぴり今昔/天路悠一郎 56       呼吸する川/林 壌 58
青の訪問者/鷹取美保子 60         いつか来た道/丸山勝久 62
兎さがし/宮沢 肇 64           雨のように/山田隆昭 66
大連・露西亞町点描/山田賢二 68      鳩/菊田 守 69
エッセイ
この一篇(2)−自作・自註/鷹取美保子 44   詩の川の辺り(2) ほっとする日常/菊田 守 46
落穂拾い(7)/高田太郎 47          木の花 木の実(二)/篠崎道子 48
書評
菊田守詩集『一本のつゆくさ』――なんでもない詩のすごさ−「土筆橋」をめぐって/中上哲夫 70
報告 詩誌「花」第二回文学散歩/山田隆昭 72
掲示板 73
編集後記 74



 沸点/沢村俊輔

やかんが沸騰している
ちんちん
音をたてている

たっぷりと閉じ込められた水は
強烈な熱にあおられ暴れ苦しんでいる
沸点を越えた水は
自分の居場所を追いやられ
空へ飛び出すしかない

冷め切った現実
欲深い人間
役立たずの警官
壊される長屋

近くで消防自動車のサイレンの音がしている
どこかで火事のようだ
野次馬は走り
ビルとビルの谷間から見える空が赤い

冷え切った夜空が
ちんちん
音をたてている
沸点をこえた現実が燃えている
たっぷりと現実に注がれたものが
沸点を越えたのだ
無数の火の粉が飛んでいる

生きてるものの皮膚感覚は
正しいのかもしれない
沸点を越えた火の粉の熱を
確かに感じとっている

 今号の巻頭作品です。「沸点を越えた水」と「沸点をこえた現実」との対比が見事です。たしかに「沸点を越えた水は/自分の居場所を追いやられ/空へ飛び出すしかな」く、「沸点をこえた現実」は「無数の火の粉」を飛ばすしかないのかもしれません。最終連の「生きてるものの皮膚感覚は/正しいのかもしれない」というフレーズも、庶民感覚と合っていると思います。しかし、「沸点を越えた火の粉の熱を/確かに感じとっている」私たちは何を為すべきか、そこが問われているとも云えましょう。大きな問題を突きつけた巻頭詩だと思いました。



   
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