きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.1.22 爪木崎・水仙群生




2008.2.12(火)


 日本詩人クラブの3月例会・研究会の案内状の版下を作って、印刷所に届けてきました。19日に発送をやりたいので、それまでに出来上がるといいなぁと思っています。印刷所には前回同様、3ッ折りにしてもらうことも頼みました。1000枚を手作業で3ッ折りにするというのは意外に大変なんです。一人でやってると2〜3時間掛かってしまいます。費用は1000円ほど上がってしまいますが、そのくらいなら機械で折った方がよいと理事会の了解も得ていますから、今回も頼んだ次第。都内に比べれば印刷代が安いから、1000円プラスになっても詩人クラブとしてはまだまだ安い費用ということになります。会員・会友の皆さまの貴重な会費で賄っていますので、なるべく安く奇麗に、そして作業負荷も低減することに腐心していますので、ご理解を賜れば幸いです。



羽生槙子氏著『花・野菜詩画集』
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2008.2.15 東京都八王子市 武蔵野書房刊 2000円+税

<目次>
ゆれる菜の花 2              大根の花 4
ブルーベリーの木 5            ブルーベリーとメジロ 6
チャワンカケ(オオイヌノフグリ)8     五月の手紙 10
雀と菜の花 12               美しい偶然 15
それぞれの木のそばで 18          青い矢車草・初夏の風 20
ツタンカーメンノエンドウとハコベ 22    七月の庭・きゅうり 1 2 25
雨の日 28                 蝶・夏の朝 30
ブルーベリー・夏の夕暮れ 32        バラとブルーベリー 34
八月の雀 37                ひゆ菜 40
ゴーヤ 42                 夕立ち 45
いんげんと光化学スモッグ被害 1 2 3 4 48  モロヘイヤとツマグロオオヨコバイ 53
シソの実 56                ホオズキ 58
ひとりぼっちのオンブバッタ 60       ヒヨドリ 62
大根のふたば 64              大根 65
アゲハの蛹 66               花びら 68
紅菜苔 70                 サラダ菜 72
ヒヨドリの牙 74              野の花々の記憶 77
立春の手紙 80               庭の野菜 82
あとがき 89
装丁 大橋久美



 チャワンカケ(オオイヌノフグリ)

花は 空のいちばん明るい時の空色に またるり色に
草の斜面をおおって咲いた

わたしは子どもで 母と手をつないでいた
「これはチャワンカケ」と母は花の名を言った
その時母は 夫を亡くし 三人の子を連れて
母の父母の住む
母の生まれ育ったふるさとに帰っていったのだった
母に教わった野の花々の名
レンゲ ノギク ヒヨコグサ(ハコベ)
ペンペングサ フエフキグサ
カラスノエンドウ キツネノボタン
母は花の前にひざまずいて わたしに花の名を言った

母が亡くなって五十年以上もすぎて 今少しわかる
あの時 母はまだ三十歳代だったこと
ある時は 子どもをこれから育てていくおそれ
ある時は 子どものわたしに母の子ども時代を重ねて

 子どもだった母は 花いっぱいの野に埋まり
 まだ自分の未来を知らず
 光にまみれて遊んだだろう

 冒頭に著者自身による絵が9枚収録されている、楽しい詩画集です。紹介した「チャワンカケ(オオイヌノフグリ)」の絵もありました。青と緑を基調にしたウキウキしてくるような絵で、「花は 空のいちばん明るい時の空色に またるり色に」なっています。
 詩は第3連が良いと思います。「今少しわかる」ことが私にも分かります。特に「ある時は 子どもをこれから育てていくおそれ」というフレーズが佳いですね。親になって初めて気付くことのように思います。
 本詩画集中の
「七月の庭・きゅうり 1」「夕立ち」「大根」は、拙HPですでに紹介しています。ハイパーリンクを張っておきましたので、合わせて羽生槙子詩の世界をお楽しみください。



詩誌『詩区 かつしか』102号
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2008.2.20 東京都葛飾区 池澤秀和氏方連絡先
非売品

<目次>
出発の朝/堀越睦子
人間百 ケロイド(2)/まつだひでお     人間百一 老々心中幻想(妻の癌4)/まつだひでお
輝いて/小川哲史              かなしさの箇条書/小川哲史
見込み違い/小林徳明            徳明イズム/小林徳明
幻の大当たり/しま・ようこ         思いの種まき/みゆき杏子
TOKYO/工藤憲治            バナナ/工藤憲治
むな騒ぎ/内藤セツコ            訪れたことのない土地/石川逸子
北西の風に 誘われて・・・/池澤秀和    えらべない −親と近所−/池沢京子



 訪れたことのない土地/石川逸子

訪れたことのない 土地
地図をひろげ 拡大鏡で探して
苦心の末にやっと見つかる その名
でも そこに一人の詩人が空を仰いでいたことがあって
懐かしく 輝いて 見えてくる 土地

中部ロシア ドン川のほとりの ヴォロネージ
「ぼくの両肩に狼狩りの猟犬の世紀が襲いかかる」と詠んだ詩人は
ヴォロネージでの三年の刑を終えた翌年には シベリアへ
骨と皮になって「衛生処置の日」に真っ裸で死んだ
詩だけが生きるすべてだったのにね マンデリシュターム

韓国慶尚北道 アンドン
雪ふりしきるなかで 「ここに貧しいうたの種子を撒かねば」
と歌った詩人の故郷には 今も青ぶどうは生っているだろうか
十七回 日本官憲に逮捕され 解放を見ることなく逝った
ユクサが 北京監獄でたしかに見た うごめく花のつぼみ

中国湖北省 シェンニン
文革のおり 強制労働に従事した モンゴルの詩人ニウハン
伐り倒された「ずばぬけて高いひともとの楓の樹」が放つ
かぐわしい香りを 年輪ごとの「涙の珠」を
大自然の深い いのちを  その地で 知ったのだね

アンダルシア・グラナダの郊外ビスナール
「大いなる泉」のそば オリーブ畑で
あっけなく銃殺されてしまった 詩人ロルカ
今日も 闘牛士を悼む あなたの詩を アジアの若者が朗誦している
「午後の五時/午後のきっかり五時だった・・・」

旭川市近文 石狩川の渓流に沿ったコタンから一里歩いて
心臓が弱い少女は 旭川女子職業学校へと通ったのだね
「私は涙を知っている」と日記に記した 知里幸恵
「銀の滴降る降るまわりに 金の滴・・・」みごとにアイヌ神謡 を訳し
たった十九歳で 天へ帰っていってしまって

訪れたことのない 土地 目に留められることもない 土地
でも今 そこにはきっと 夕焼けに心はずませる 詩人がいて
胸の袋に溜まった あれこれを 空に 大地に
書きつけていることだろうね

 ・中平耀訳『マンデリシュターム読本』、伊吹郷訳・ユクサ詩文集『青ぶどう』、
 秋吉久紀夫編訳『牛漢詩集』、小海永二訳『ロルカ詩集』、知里幸恵『アイヌ神謡』

 私にも覚えがあります、「地図をひろげ 拡大鏡で探して/苦心の末にやっと見つかる その名」。「訪れたことのない 土地」であっても「そこに一人の詩人が空を仰いでいたことがあって/懐かしく 輝いて 見えてくる 土地」だという思いは、作品を理解する上で必要なことかもしれませんが、それ以上に詩人と同じ空気を共有したいという欲求があるように思います。作者は5人の詩人を具体的に挙げて、その土地への思いを熱く語りますが、それは詩人としての連帯感なのかもしれません。自分の詩だけを偏愛することは、それはそれで良いのかもしれませんけど、多くの詩人に作者のような姿勢もほしいと感じた作品です。



詩と評論『操車場』9号
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2008.3.1 川崎市川崎区 田川紀久雄氏発行 500円

<目次>
■詩作品
詩三篇/井原 修 1            浜安善――S・Kに/鈴木良一 2
鏡を見る男の自画像/高橋 馨 4      如月/野間明子 5
あまく・微笑む闇/金子啓子 6       影のサーカス −27/坂井信夫 8
生命の旅 第一章を語る/田川紀久雄 10   歌舞伎町、裏/長谷川忍 12
■エッセイ
詩誌『ぷれいす』について/井原 修 13   末期癌日記二月/田川紀久雄 14
浜川崎にて/坂井のぶこ 29
■後記・住所録 30



 鏡を見る男の自画像/高橋 馨

 駅前のスーパーでレジのおばさんの口臭に顔をしかめて店を出た。白い献血車が停
まっている。ついでにエイズの検査をしてくれるそうだ。てっきりそれかと思った。
「おれ、高脂血症、脂が多くてだめだよ」
「だいじょうぶ、だいじょうぶ」変なアクセントでチラシ配りの美女が言う。
 ピンクのタンクトップに、短パンの生脚にスニーカー。後ろから押されるようにし
て、赤十字風の大型バス。中では上半身裸の老人が順番を待っている。見ると、後ろ
手に手錠が掛けられている。ピンクのユニホームの係員は全員がぴちぴちギャル。
 屈んで、Yシャツのボタンをはずしにかかった。女の髪の快い香。
「おお、臭い!」
 おれの口臭に大げさに顔をしかめる。これですっかり毒気を抜かれてしまった。
 かくて、上半身裸にされ、両腕を後ろ手に手錠を掛けられた有象無象の一員となる。
「これから、一人ずつ口臭検査をいたします」
 数分後、投票所のボックスのようなところに立たされる。女性の「大きく息を吸っ
て」の掛け声。
「ふーっ、と一気に吐き出します」
 目の前のガラス坂にぶちぶちの汚い斑点が出来る。
 係員、ガラス坂を抜き取って、しげしげと見入る。唇がぼてっとした色っぽい女で
ある。
「とても臭い。みんな、あなた嫌いになる。奥さんも、お子さんも、お友達も」
 女、脇の紙箱から口紅ほどの赤いスティクを一本抜き取り、キャップを開けて、ガ
ラス板にスプレー一吹き。たちまち、汚れが溶けて流れ落ちる。それをテッシュペー
パーできれいに拭い取る。これ見よ、とばかりにガラス板を目の前に差し出す。向こ
うにシミ一つない、つるんとした卵顔がにっこり、胸に視線を落とせば、垂涎寺タレ
子、おれって古い――。
「お口をあ−んして」
 鮟鱇みたいに大口を広げると、そこヘスプレー、しゅーっ、と一吹き。
「これ、一本、1万円、安い」
 なぜか、女の口からムッとする魚臭い吐息。

「それ、わたしの口紅。なにしげしげ見ているの、お父さん、早くどいてよ、後がつ
かえているんだから」
 昨日から、娘が子供を連れて泊まりに来ているのだ。
 おれ、洗面台の鏡にふっーと息を吹きかけてみる。あばたがぷちぷちと見える。

 「上半身裸にされ、両腕を後ろ手に手錠を掛けられた有象無象」というのはレントゲン写真を撮られるときの格好ですが、「献血車」でレントゲンを撮ることはないでしょうから、この辺からだんだん話がおもしろくなっていきます。次には「口臭検査」に変わって、最後は自宅。そこで「鏡を見る男の自画像」というタイトルに行き着くわけですけど、展開になぜか無理がありません。「おれ」を狂言回しにしていますから納得できるのでしょうね。なんとも面白い作品です。



個人詩誌『魚信旗』44号
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2008.2.15 埼玉県入間市 平野敏氏発行 非売品

<目次>
一齣
(ひとこま) 1    冬の手帖 2     日没 4
深い谷 6      叫び 7       樹と品格 8
後書きエッセー 10



 ひとこま
 一齣

関係している障害者福祉審議会でのひとこま
「自立支援法」というけど「自立」とは何だという定義論
「障害」はいまや「しょうがい」とか「障がい」に表現されているなか
会議は大学の講義よろしく「言葉」からはじまり
「言葉」に不信を持ち続けながら終わった

進捗のない会議というものは確かにある
どうにも解せないものはしょうがない
と簡単にあきらめられないこともある
衆知を集めて「自立」とは一歩二歩前進することかと一応は納得する
障害者には「完全な自立」は滅多にない
とくに平癒なき先天性のものには「自立」は鞭より痛い
「言葉」では永遠に治癒しないが
納得で心を禁
(いさ)める

悪いのが「言葉」なのか
   ・・・・・・
もっとやさしい言葉や表現の仕方がないのか
法制局もいろいろ考えた未だろう
会議のひとこまも想定されたであろう
神が手引く言葉の力によって運命が変わるかもしれない
侮れない言葉の定義を希望の花のように見えた
毎日無数に生ずるひとこまのなかの
ちょっとした会議での
緊張のひとこま
問いから始まる生きるためのひとこま

 「関係している障害者福祉審議会でのひとこま」ですが、やはり言葉の「定義論」から始まるのだなと思いました。私も以前、政府系の委員会に出席したことがありまして、そこでも最初は言葉の定義でした。委員全員の認識を共通にするという目的からだったのでしょうが、技術系の委員会でしたからそう無理はありませんでした。しかし社会科学系の分野では相当難しいでしょうね。「会議は大学の講義よろしく『言葉』からはじまり/『言葉』に不信を持ち続けながら終わった」というフレーズにそれがよく出ていると思います。そんな中でも作者は「衆知を集めて『自立』とは一歩二歩前進することかと一応は納得する」、「納得で心を禁める」とし、「問いから始まる生きるためのひとこま」と締めたことに敬服してしまいます。「もっとやさしい言葉や表現の仕方」をも考えさせられた作品です。



   
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