きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2005.8.5 長野
戦没画学生慰霊美術館「無言館」
 

2005.9.4(日)

 9月最初の日曜日は何の予定もなく、終日、書斎にこもって過しました。もちろん、いただいた詩誌・詩集を読んでいました。
 それにしてもいろいろな人がいろいろなことを考えているものだと思います。その知を有機的に結びつけられたら凄いことになりますけど、その一環としてインターネットの発達もあったと思いますけど、危険な側面も見逃すことはできないでしょう。まだ感覚でしか言えないのですが、いずれそんなことも書いてみたい思っています。




新・日本現代詩文庫35『長津功三良詩集』
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2005.8.6
東京都新宿区
土曜美術社出版販売刊
1400円+税
 

  <目次>
   詩集『白い壁の中で』(一九六〇年)抄
    序詩・10              青春について・22
    I                 煙草・23
   白い壁の中で・11           城東線始発前・24
   広島にて・11             夏のはじめ・24
   喪服の女・13             二月・25
   夜の記憶・14             夜・26
   夜・14                喫茶店にて・26
   七月・14               街・27
   独楽・14               九月・27
   海峡にて・15             晩夏・28
   八月 又は爆薬について・15      黄昏・28
   五月・17               黄昏・29
   海の見える墓地・17           V
   夜の海峡・18             感覚について・29
   満月・19               二十歳の周囲 ――或る友への手紙――・32
   何処かで誰かゞ醒めている・20     冬のはじめ・42
   広島にて・21             素面(しらふ)で道化る人の方程式について・43
    U                 空はよく晴れていた・44
   無心・21               そこに少女(きみ)が居るから・46

   詩集『影まつり』(一九九四年)抄
    T                 黄昏・62
   慰霊祭前夜・48             U
   蒼天・49               広島にて・63
   遠い夜・50              東京植民地・65
   影まつり・50             河口・68
   わが基町・52             惰性の法則−ホワイトカラーについて−・69
   風の墓・54              冷房装置の中の夢・70
   海峡にて・55             雨の日に −恋唄−・71
   満月・56               九月 −テロリストについて−・72
   女へ・56               海・74
   拾月の・57              夜が・74
   化石・58               一日・75
   広島駅にて・59            夜・75
   ドライフラワー・61

   詩集『影たちの証言』(一九九五年)抄
   影たちの証言・76           風の道・84
   櫻・比治山公園・78          夜の街へ・86
   冬・三滝観音への道・81        幾筋も川のある街・87
   石の柩・83              たそがれ・89

   詩集『頭蓋の中の廃墟』(一九九八年)抄
    T                 五月・フラワーフェスティバル・109
   墓標・89                U
   告発 ひろしま平和公園にて・91    通過点・111
   八月 '97イサム・ノグチ平和大橋・92  事故・112
   八月・ひろしまにて・94        風葬・113
   生き残る・95             鳥・114
   生きる・96              爆弾・116
   八月・千田町一丁目界隈・98      六月・山峡の家・118
   我より先に逝きし者あり 五月・工兵橋付近・100
   三年六組・101             漂流・119
   三年六組 U・103           わが監獄より・121
   六月・稲荷町電車専用橋・105      頭蓋の中の廃墟・122
   常盤橋界隈・107            荒野へ・123

   詩集『おどろどろ』(二〇〇一年)抄
   おどろどろ・125            冬至・144
   山の上の共同墓地・128         白いノート・145
   一の川(こう)狐物語・130        白いノート U・147
   猿猴ケ淵物語・133           風花・149
   西岸寺縁起・135            風の道・150
   ねかさのかんのんさま・137       冬至の朝・151
   やまんぼう・139            われらぁよぉのむのぉ・153
   パンドラの匣・141           いぎ牡丹・155
   十月・山峡の村・143

   詩集『影たちの葬列』(二〇〇三年)抄
   影たちの葬列・157           元安橋・燃料会館跡・177
   腕・164                三篠大橋付近・178
   火焔樹・166              人みな通る道・180
   ずるむけ・168             神とは悪魔のことか・182
   壊れた空・169             夜の底・186
   うじむし・171             変わったか・187
   六五〇型電車・172           そして誰もいなくなった・189
   白い鴉・174              きみよみたか・190
   黒く裂けた空・176           八月・そして白刃・191

   エッセイ
   原風景との対話
    三つのひろしま・196         新制中学五十周年・199
    稲荷町電車専用橋・197        男便所のない高校・200
    消えた国民学校・198         原民喜の碑・201

   解説
   倉橋健一 長津功三良のヒロシマ・204  吉川 仁 進化する眼について・207

   年譜・211



    広島にて

    橋上に立てば、対岸のドームが見える。
    赤い落陽を受け、聳り立つ不書な鉄骨と、散り
   しいた煉瓦の影、さびれた貸ボート屋の桟橋と安
   バラックのペンキの匂いを嗅ぐ。
    その時、俺やおまえ達の、予約された死の意味
   を聴いた。河底の砂と、砂に埋る白骨の群れに。

    俺の生まれた家の記憶、隣家の可愛い少女の記
                
すがた かけら
   憶。それらはすでに辿るべき形態の破片すらも無
   く、たゞ足下に満潮の川があるばかり。

    間近い夜の中へ傾斜してゆくドームの、虚しい
   記憶の重みが、俺の心を冷たく、呑み込む。

    ああ橋上を風が吹く。  
しらせ
    はげしく地軸の揺れる日の予告であるのか、対
   岸のドームは、俺の視界で、次第に妖しい燐光を
   放ちはじめていた。

 1960年刊行の第一詩集『白い壁の中で』から、34年後の第二詩集『影まつり』、そして直近の第六詩集『影たちの葬列』までを抄録した詩集で、私にとっては貴重なものでした。著者の作品に接したのは第五詩集の『おどろどろ』あたりからですから、それ以前の作品を拝読できたのは喜びです。

 ここでは第一詩集『白い壁の中で』から「広島にて」を紹介してみました。長津さんと言えばヒロシマ・原爆と連想するのですが、意外にも第一詩集にはそういう作品がありません。当時25歳、青春の真っ盛りで、青年期を描いた作品が多いのは当然でしょうが、現在の活動に繋がる作品が少ないのは意外だったというのが正直なところです。
 唯一の例外が「広島にて」だと思います。一歩退いたところは現在と違う作風と云えましょうが、対象の捉え方に共通性を感じます。「予約された死の意味」という詩句には長津詩の真髄があると思います。

 この詩集には拙HPですでに紹介している作品も多く含まれていました。『おどろどろ』の
「西岸寺縁起」「白いノート」「風の道」「われらぁよぉのむのぉ」、『影たちの葬列』の「腕」「変わったか」などです。ハイパーリンクを張っておきましたから、合せてご覧いただくと良いでしょう。




会報『中四国詩人会ニューズレター』15号
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2005.8.31
山口県美和町
理事長兼事務局長・長津功三良氏方 中四国詩人会 発行
非売品
 

  <目次>
   御庄博実会長のご挨拶
   第10回中四国詩人会理事会審議事項
   受贈詩集等
   受贈詩誌等



 今号のトピックスは第5回中四国詩人賞に井上嘉明氏の詩集
『地軸にむかって』が選ばれたことですね。私も拝読とていますが、とても佳い詩集です。中四国詩人賞のレベルの高さが判ります。拙HPでも紹介していますのでハイパーリンクを張っておきました。詩集のごく一部しか触れていませんが、ご覧いただければ参考になると思います。




会報『近状通信』23号
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2005.8.26
広島市佐伯区
海老根勲氏方・広島花幻忌の会 発行
非売品
 

  <目次>
   久し振りに「総会」を開きます
   助成金3件を獲得
   中国新聞地域ニュース



 拙HPでは初めての紹介になりますが、原民喜を顕彰する
「広島花幻忌の会」に会誌『雲雀』があって、その通信版という位置付けのようです。この11月は原民喜の生誕100周年ということで、助成金も取れたことなどが載っていました。



杉 裕子氏エッセイ集エッセイあれーこれー
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回転木馬叢書(X)
2005.8.18
千葉市花見川区
回転木馬 発行
1200円
 

  <目次>
   第一部
   私の糖尿病騒動顛末記
    高血糖症騒動記 ・・・・・・・・・・・・・・・9
    続・高血糖症騒動記 ・・・・・・・・・・・・・36
    高血糖症騒動安定記 ・・・・・・・・・・・・・48
    高血糖症騒動その後 ・・・・・・・・・・・・・54

   第二部
   シャム猫もどきクロの生涯
             ――私の飼い猫教育論――
    プロローグ ・・・・・・・・・・・・・・・・・59
    母猫の闖入とクロの誕生 ・・・・・・・・・・・62
    米粒を食べない、どんでどじなクロ ・・・・・・64
    わたしゃ 猫じゃあないわいなア! ・・・・・・67
    ワタシ、じゅんくんのねえさんなんよ ・・・・・70
    のぶちやんのケッコン
       双方のショックのりこえて ・・・・・・・71
    いつもおいてけぼり
       可哀相なわたし・・留守番後遺症・・・・・74
    エピローグ ・・・・・・・・・・・・・・・・・77

   第三部
   エッセイあれこれ
    ブダペストの朝湯とバーデン・・・・・・・・・・85
    旅とデジカメ ・・・・・・・・・・・・・・・・91
    ホッホヴァッサー(Hochwasser)・・・97
    比叡山薪歌舞伎の旅 ・・・・・・・・・・・・・107
    祭りと地芝居 ・・・・・・・・・・・・・・・・112
    奥只見の旅 ・・・・・・・・・・・・・・・・・120
    悲観と楽観 ・・・・・・・・・・・・・・・・・125
    チューリッヒ中央駅でのこと ・・・・・・・・・129

   あとがき ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・131



 「私の糖尿病騒動顛末記」だけのエッセイ集にするつもりだったようですが、結局「第二部」と「第三部」を合わせた構成とした、と「あとがき」にありました。そう思うほどですから、やはり「私の糖尿病騒動顛末記」は圧巻でした。糖尿病には私の知人の何人かも罹っていますから、多少の想像はつくのですが、かなり辛いものだとこの本を読んで改めて感じます。その病をどうやって克服していったかが書かれていますので、悩んでいる方にはお薦めの1冊だと思います。

 ここではキーワードだけを紹介しておきましょう。まず、渡邊昌氏著『糖尿病は薬なしで治せる』(角川
oneテーマ21)という本が役立つようです。それに基づいて著者が実践したのが「『自己測定』と『食事と運動』、それに『温浴』の三本柱」。具体的に書くと、この本をまるまる1冊写すようになってしまいますので避けますが、お悩みの方、ご一読してみてください。




詩誌『交野が原』59号
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2005.10.1
大阪府交野市
金堀則夫氏 発行
非売品
 

  <目次>
  《詩》
   案山子の日々      宮内 憲夫 1  ミセスエリザベスグリーンの庭に 淺山 泰美 30
   鳥           望月 昶孝 4  ある季節のレクイエム      八潮  煉 32
   その先を言わずに    小長谷清実 6  落下詩編            中上 哲夫 34
   椅子          松尾 静明 8  フーウ             大橋 政人 36
   殺伐の門        溝口  章 10  帽子              島田 陽子 38
   僕たちを運ぶ電車   辻元よしふみ 12  棲処              四方 彩瑛 39
   わすれもの       瀬崎  祐 14  空の坂             川島  完 40
   モチーカ族の手紙    北川 朱実 16  おやすみハムスター       古賀 博文 42
   指迷路         岡島 弘子 柑  日めくり            美濃 干鶴 44
   蟻についてのノート   片岡 文雄 20  書痙              金堀 則夫 46
   盗品          國峰 照子 21  黒対青             吉沢 孝史 48
   桜の木の下で      田中 国男 22  あらく             鈴木 茂夫 50
   暁、水に返る    たかぎたかよし 24  比良 暮色           和田 英子 52
   いわし雲ほか      福田万里子 26  失血              一色 真理 54
   愛道          佐々木洋一 28

  《評論・エッセイ》
   ☆近藤 東・・・ポエム・イン・シナリオ                  寺田  操 56
    ・具常詩人追悼−倭館具常文学館での一周忌にちなんで           中原 道夫 80
    ・羊と日本人                              河内 厚郎 82
    ・「文明開化 安吾捕物帖」のおもしろさ                 美濃 千鶴 83
  《郷土エッセイ》 かるたウォーク『ほいさを歩く』(6)            金堀 則夫 94

  《書評》☆『大河原巌詩集』 (鮫の会発行)                 芳賀 章内 60
      ☆苗村吉昭詩集『オーブの河』 (編集工房ノア)           宇佐美孝二 62
      ☆三井喬子詩集『牛ノ川湿地帯』 (思潮社)             作田 教子 64
      ☆伊勢田史郎詩集『龍鐘譜ほか』 (詩画工房)            松尾 茂夫 66
      ☆岡 隆夫詩集『ぶどう園崩落』 (書坪青樹社)           蒼 わたる 68
      ☆四方彩瑛詩集『瓢瓢』 (交野が原発行所)             田中眞由美 70
      ☆豊原清明詩集『時間と草』 (ふたば工房)             北野 和博 72
      ☆森田進・佐川亜紀編『在日コリアン詩選集』(土曜美術社出版販売)なべくらますみ 74
      ☆中村不二夫著『現代詩展望W』 (詩画工房)            小川 聖子 76
      ☆木坂 涼著『ベランダの博物誌』 (西田書店)           八木 幹夫 78

  《子どもの詩広場》
   −小・中・高校生の詩賞第二十八回「交野が原賞」作品発表−    交野が原賞選考委員会 84
                                         編集後記 96
                                《表紙・デザイン・福田万里子》



    わすれもの    瀬崎 祐

   列車の出発時間がせまる
   あわただしい旅立ちのときだ
   列車の中で読む本を持っていないことに気づき
   駅の地下通路を抜けて
   隣のホームの売店まで本を買いに行こうとする

   そのはずだったのだが
   気がつくと 私は小学校の廊下を歩いているのだった
   そして教室の中で
   末の息子が私に向かって一生懸命に手を振っているのだった
   おや そんなところにいたのか
   ずいぶんと遠くまで捜しに行ってしまったよ
   もうお前は大丈夫になったのかい
   遅くに生まれたお前のことはいつまでも気がかりだったよ
   父親参観でもあったのだったか
   なにも隠す必要がなかったころのお前の手の振り方がうれしくて
   私は親しみを込めて小さな合図をかえしたのだった

   でも本当はそんなことはなくて
   やはり私は駅の地下通路を歩いているのだった
   こんなところで小学校の廊下を思い出すなんて どうしてだろう
   それにしてもあの教室で
   手を振っていたのははたして未の息子だったのかしらん
   本当は あれは幼い日の私ではなかっただろうか
   何か忘れてしまったものを知らせたくて
   何も隠す必要のなかったころの私が
   必死に手を振っていたのではないだろうか

   教室のドアを誰かが叩く わすれものですよ

   こちら側のホームから眺めると
   出発しようとしている列車に私が座っているのが見えた
   何か とんでもなく大事なものを忘れてしまって
   その大事なものが何であったのかも忘れてしまって
   途方に暮れたような私が
   ただぼんやりと座っているのだった

 幻視が二重になっているところがおもしろい作品だと思います。対になっている「なにも隠す必要がなかったころのお前」と「何も隠す必要のなかったころの私」というフレーズも良く効いていると云えましょう。「何か とんでもなく大事なものを忘れてしまって」いるという感覚には、私も時おり襲われます。人類として共通に持っているものなのかもしれませんね。深層心理を考えさせられた作品です。



隔月刊詩誌『石の森』129号
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2005.9.1
大阪府交野市
交野が原ポエムKの会・金堀則夫氏 発行
非売品
 

  <目次>
   性海 美濃千鶴 1
   サーフィン揖保の糸 南 明里 2
   ドット 夏山なおみ 3
   心療 四方彩瑛 4
   弔いの鐘/水を砕く 大薮直美 5
   都会の逃亡者 山田春香 6
   笑いの美学 石晴香 7
   蛙
(かわず)の時間 7
   引き金 西岡彩乃 8
   山道 金堀則夫 9
   <<交野が原通信>> 10
   飽浦敏
(あくうら とし)詩集『にーぬふぁ星』を読んで 美濃千鶴 11
   幻影の城主 四方彩瑛 13
   あとがき 15



    山道    金堀則夫

   滝というところから
   龍間へと歩いていくわたしは
   巨大な胎内に入り込んでいく
   足元に蛇行する川の流れ
   昇っていく
   気迫が
   激しい水音とともに
   迫ってくる
   瀧
   波打つ尾根の背は
   覆いかぶさる
   山道
   わたしは いったい どこにいるのだろう
   龍のなかに
   わたしは 包まれている
   山間を歩くわたしのからだは
   この地の龍になって昇っている

   旱魃に行基が
   桜池で雨乞いすれば
   大雨が降り
   龍のからだが三分され
   頭と 胴と 尾が落ちた
   霊を慰めるため
   行基は寺を建立し 葬った
   頭の龍光寺 胴の龍間寺
   今に残る
   渦状の尾に鉄剣を巻いた
   寺宝の籠尾寺
   この谷間に
   この川筋に
   大きな蛇行が生きている
   わが身も 大蛇も 雷神も 鶏も
   行基が国土を描いた独鈷のかたちも
   龍になって
   生息している

 スケールの大きな作品だと思います。「龍のなかに/わたしは 包まれている」と「山間を歩くわたしのからだは/この地の龍になって昇っている」という二つの視点もおもしろいと云えましょう。そして圧巻は「龍のからだが三分され/頭と 胴と 尾が落ちた」というフレーズですね。「頭の龍光寺 胴の龍間寺」「寺宝の籠尾寺」は、おそらく現存していると思われます。「山道」という三次元と歴史という四次元が見事に調和した作品だと思いました。



詩誌『石の詩』62号
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2005.9.20
三重県伊勢市
渡辺正也氏方・石の詩会 発行
1000円
 

  <目次>
   沈黙               濱條智里 1
   ランスウッド           北川朱実 2
   電話をかける          西出新三郎 4
   不倫の春             真岡太朗 6
   魔女宣言 ]]]Y        濱條智里 7
   フリスビー            橋本和彦 8
   了解               八木道雄 9
   サーカスのテントB      キム・リジャ 10
   花は桜              加藤眞妙 11

   三度のめしより(十六)      北川朱実 12
    それは
    とても単純なことかもしれない

   逝ってしまったあなたに      浜口 拓 16
   冬のデッサン          奥田守四郎 17
   日時計             澤山すみへ 18
   ネーブル             坂本幸子 19
   ある介護福祉士に         谷本州子 20
   永遠の子ども会 V        高澤靜香 21
   シックス・センス         落合花子 22
   隧道               渡辺正也 24
   ■右の詩会 CORNER          25
                   題字・渡辺正也



    隧道    渡辺正也

   眩しい陽射しのなかを
   遠く隧道まで釆てしまった

   乾いた空から
   とつぜん
   当然のように目潰しに遇い
   周囲は形態をまるで失い
   色彩は粉砕されて散った

   幅のわからない世界の底に
   悔恨を呼ぶセンタアラインが
   かすかに続いている

   無明をどうにかするために来たのではないのに
   脇の空間から
   死者たちが両の肋骨を
   戯れのように圧してくる

   天井の壁から
   櫛風がどっと脱け墜ちてきて
   皮膚を笛の音のように震わせる

   思えば
   高く芽吹く枝はだれにも折られず
   炎天で話していた人は
   だれも笑顔だった

   先を往くものはすでに見えず
   あとに続くものは蹲っているのだ
   すれ違うものたちは
   目を閉じる間もなく
   うしろへ身を切るように翻って行く

   途中うねっている回路は果しない
   なにを糺せば
   水脈の秘奥が音もなく光って見えるのか

   命のたたずまいは
   陽射しに繁り青く燃える樹々の下で
   もう編みつくされたのだろうか

 「眩しい陽射し」から急に「隧道」に入ったことをイメージして拝読しました。徒歩で入った、と読んで良いでしょう。「脇の空間から/死者たちが両の肋骨を/戯れのように圧してくる」という感覚をまず捉まえる必要があると思います。そこから、この隧道はただの隧道でなく、人生そのものであることが判ります。「眩しい陽射し」にもう一度出る前に「命のたたずまいは」「もう編みつくされ」ているのだろうか、という最終連は重いのですが、私は「思えば/高く芽吹く枝はだれにも折られず/炎天で話していた人は/だれも笑顔だった」というところを信じて良いのではないかと思っています。
 作者の意図とはズレた読みかもしれませんが、そんなことを考えた作品です。




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