きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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満天星 2005.1.8 自宅庭にて

2006.2.14(火)

 どうも風邪をひいたようで、会社まで行ったのですが帰って来ました。午後から関連会社との会議がありましたけど、とても南青山まで行ける状態ではなく、私の分担書面は東京本社の担当者にEメールで送って、欠席にしました。その関連会社とは私の在職最後の会議となるわけでしたけど、まあ、しょうがないと思いましたね。ここで無理をしても意味はありません。会社は組織ですから、一個人が抜けてもちゃんと回っていきます。これからは会社よりも私の身が大事。生涯の面倒を見てくれるわけではありませんし、見てもらうつもりもありません。やっと自分の身、自分の人生を考えられるようになったなぁと思います。



奥野祐子氏詩集薔薇の大車輪
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2006.2.10 東京都千代田区 西田書店刊 1500円+税

<目次>
T 内なる城
リバーシブル 8              亀裂 11
SKIN 14                BOX 
in the BOX in the BOX 16
知る 19                  CHANGE 21
城 24                   小さな決意 26
密約 28
U アンドロイドの愛
ピストル 1 34              たまご 37
うらがえし 39               ピストル 2 42
愛の爆弾 44                目玉 46
V 水の変容
なんようのおさかな 50           時節到来 52
渦 55                   完璧なプール 57
沈殿 60                  滝 62
W けだものたち
鋼鉄のけだもの 66             騎士 69
道の終わりになにがある 72         小鬼 76
帰ってきたライオン 77           真っ暗な真昼 79
ドードー 最後の一匹 82
V 痙攣する空の下で
らせん 86                 西行さん 89
放置自転車 91               ロウソク 92
謎 94                   地震(earth quake) 97
はね 100
Y めには みえなくても
HOLL 104                アールグレイ 106
薔薇のアーチ 109              YESのまなざし 112
タイヤモンド 114              体臭 117
薔薇の大車輪 119              うつくしいもの 124
月面到着 126
恐怖の郷愁(だから わたしは 詩をかく) 128
あとがき



 薔薇の大車輪

正しいことも
まちがったことも
何もなかったのかもしれない

ただ
必死で
無我夢中で 生きてきた
すべては ただ
ありうべくしてあり
おこりうるべくして おこったことで
地を這うアリの歩みすらも
整然と緻密につくられた
計画通りの軌道をたどっているようで
あらがえない
大きな大きな時計だけが
冷徹に
時を刻んでゆく

そこには
失敗も
事故も
過失も
何もありえない
そしてもちろん
幸連な偶然も ありえない
月が 満ちては欠けてゆくように
太陽が登っては また
沈んでゆくように
すべてのものが
確かな足取りで動いてゆく

わたしの人生は いったい
ほんとうに
わたしだけのものなのだろうか
操り人形が 人形師の思惑など
少しも知らずに
巧みに踊り続けるように
わたしも また今日をうまく
ただ 生きてしまっただけなのだろうか
健やかな細胞たちのおかげで
眠り 食い 排泄し 交わり
一日を終えただけなのだろうか

ああだけど
彼方に
私の視界の片すみに
記憶のすみっこに
バラバラのマネキン人形のように
うず高く 積み上げられ
くんずほぐれつ もつれ合い
時の流れに さらされて
車輪のように 回り続ける
薔薇色のヒトの死骸が
いつも見えるのだ

もぎとられた首や手足や
もはや
ニンゲンの形をとどめていない
だけど
確かにニンゲンだったものたちが
からまり
もつれ合ってできた
薔薇色の大車輪が
ゆっくりと
回り続けているのが 見えるのだ

あれらも
正しいことでも
まちがったことでもなく
すべては
必然だったのか?

冷たく鋭い問いかけのように
喉元に刃をつきつけてくる
脅迫めいた 詰問のように
薔薇色の むきだしの肌が光るのだ
死しても
なお 生々しく
触れれば
血が吹き出しそうな肌が
激しくにおうのだ
どうしようもなく発熱するのだ
わたしのなかで

正しいことも
まちがったことも
何もなかったのかもしれない

ああ
そんなことなど知る間もなく
無我夢中で生きてゆくだけ
光のように
駆けぬけてしまえたらいいのに!
このいのちを!

 タイトルポエムを紹介してみました。すごいタイトルなのでどんな作品かと思ったら、意外と判りやすく、でも、深遠です。奥野祐子という詩人の哲学が端的に表現された作品だと云えましょう。これまで奥野さんの作品を数多く拝見し、ライヴにも何度か足を運びましたが、表現の基本は「正しいことも/まちがったことも/何もなかったのかもしれない」というところにあったのだと、ようやく気付いた次第です。だから「操り人形が 人形師の思惑など/少しも知らずに/巧みに踊り続けるように/わたしも また今日をうまく/ただ 生きてしまっただけなのだろうか」と書かざるを得ないし、「確かにニンゲンだったものたちが/からまり/もつれ合ってできた/薔薇色の大車輪が/ゆっくりと/回り続けているのが 見えるのだ」ろうと思います。この詩人の深い哀しみが、迂闊にもようやく判ったように感じます。

 このHPではHTMLの制約で作品をベタに書き表していますが、原本ではもっと複雑です。どのように複雑かは述べますまい。できれば手にとって読んでほしいと思います。ただ、拙HPでも本詩集中の何篇かはすでに紹介していました。
「SKIN」 「小さな決意」 「ピストル 1」 「完璧なプール」 「道の終わりになにがある」 「ドードー 最後の一匹」 「うつくしいもの」 にはリンクを張っておきましたので、よろしかったら参考にしてください。雰囲気は判りますが紙の本との違いがあることもご承知おきいただければと思います。



個人誌『せおん』創刊号
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2006.2.1 愛媛県今治市
柳原省三氏発行 非売品

<目次>
うしがえる      悲しみの宝石
瀬音         あとがき
表紙写真:メルボルンの夕刻



 瀬音

夜の瀬戸に耳を澄ませると
瀬音のざわめきに混じって
若者の人魚と少女の人魚の
語り合う低い声が聞こえる

干上がった磯の陰で
夜の更けるのも忘れたかのように
熱心に何を話しているのだろう
少女の人魚が時々楽しそうに
相槌を打っている気配がする

若者の人魚は
確かに死んだ二男の声であるが
少女の人魚は
美しい広島の姪に似た
フランス人形の顔をしているに違いない

ぼくは彼らの語らいを聞くために
眠れぬ夜更けは
潮の引いた瀬戸にたたたずみに来る

一人で泳ぐのが好きな子であった
夜の海にさえ泳ぎに出かけるのには
ぼくはあきれてしまったのだが
人魚ならば納得できる

やはり
普通には育たない子であった
深い情愛と思い出をこの世に残して
あの子は帰っていったのだ

・・・瀬音に人魚の語らいの混じった
   夜のさざめきを
   ぼくは「せおん」と呼ぶことにしている

 詩集『海賊海域』で2004年の話題をさらった柳原省三さんの個人誌です。「せおん」とは何かと思ったら「瀬音」のことでした。しかしそこには昨年夏に急病死した御二男への思いがあることも判りました。亡くなった御子息を「人魚」と考える親心を思うと、胸が熱くなるのを感じます。あとがきには「この悲しみを耐えるには、わたしは詩を書く以外に術がない」とありました。外航路の船員という詩人としては珍しい職業を退職なさった今、その経験に裏打ちされた詩作品を御子息も望んでいるのではないかと愚考しています。



詩の雑誌『いのちの籠』2号
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2006.2.15 神奈川県鎌倉市    350円
羽生康二氏方・戦争と平和を考える詩の会発行

<目次>
【詩】
子どものからだの中の静かな深み‥中村純 2 けもの道‥中 正敏 3
地球の声‥三方 克 4           もし‥真田かずこ 5
愚民‥掘場清子 6             十月のセミ‥佐相憲一 7
灰の指輪‥佐川亜紀 8           辺野古の海と空の間に‥芝 憲子 9
父の手紙‥杉山満夫 10           里山‥江部俊夫 12
背骨‥伊藤眞司 22             命令‥古賀博文 23
その時 空は‥閤田真太郎 24        わたしたち生きのこったものは‥大河原巌 25
人間の学校 その113‥井元霧彦 26      りんご/風‥日高のぼる 27
小さな金盥の水‥季 美子 29        壊れるのは‥坂田トヨ子 30
「共謀罪」の凶暴性‥日高 滋 31      時代の鏡‥三井庄二 32
爆弾‥成瀬峰子 34             草の行方‥柳生じゅん子 35
未来への伝言‥門田照子 36         戦争の風化‥池田錬二 37
戦争と訓練‥山岡和範 38          笑い‥篠原中子 40
服‥久保田穣 41              痛みの瞬間‥しまざきふみ 42
高遠菜穂子講演会‥斎田朋雄 43       ねむれないねむの木‥白根厚子 44
武器のない戦場‥山野なつみ 45       円の木‥葵生川玲 46
ユラユラ笑(わろ)てるんや‥麦 朝夫 47   自転車坂‥甲田四郎 48
【エッセイ】
日本国憲法を読む(第1回)‥伊藤芳博 13   『亀も空を飛ぶ』を観て考えたこと‥絹川早苗 18
話し合いを拒否する政府首脳‥羽生康二 49  憲法9条・25条を松本ことばに‥池田久子 51
青春の傷‥白石祐子 52
あとがき‥53                会員名簿/『いのちの籠』第2号の会のお知らせ‥表紙裏



 里山/江部俊夫

里山に
父母眠る

春は若葉
雑木林で
新しく命が生まれ
小鳥がさえずる

その隅に
父母と並んで
碑がたっている
享年二十歳
陸軍上等兵
谷岡忠彦(タアちゃんと呼ばれていた)
昭和二十年一月
南の島で戦死
父母の碑より古びた碑
「親より先に死ぬは
一番の親不幸」

秋になると
栗の実が
タアちゃんの
墓に落ち
子どもたちの声がこだまする

春 秋の彼岸 盆に挿される
花としきみ

黒ずんだ
タアちゃんの碑は
二十歳のまま

タアちゃん
安らかに眠らないで下さい
わたしたちは過ちを
繰り返しますから

 少し前に親を大事にしよう≠ニいう某財団のCMがありましたが、確かその財団は自衛隊のイラク派兵や憲法九条改悪に賛成していたように記憶しています。日本には昔から「親より先に死ぬは/一番の親不幸」という言葉があり、そのこととの矛盾を考えてしまいました。
 最終連の「安らかに眠らないで下さい/わたしたちは過ちを/繰り返しますから」は広島平和公園の原爆記念碑文をもじったものですけど、パロディーと言えない怖さを感じます。私たちは何度過ちを繰り返さなければならないのだろうか、ということを考えさせられた作品です。



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