きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2010.3.18 早稲田大学・演劇博物館




2010.4.6(火)


 西さがみ文芸愛好会の運営委員会が開かれました。この会には総会がなく、会員100名ほどのうちから選ばれた20名ほどの役員で構成された運営委員会がその任にあたっています。内容は通常の総会と同じで、2009年度事業報告・決算報告の承認、2010年度事業計画・予算が執行部原案通り承認されました。今回から代表と事務局長が変わり、新しい出発となりました。

 私は事務局次長ということで勘弁してもらい、提案した2件はいずれも承認されました。
 提案の第1は、毎年開催される文芸展の作品を冊子化することです。2009年度はすでに終わっていますが、その展示作品を早めに冊子化すること、2010年度は事前に冊子化して会場で売ることが認められました。
 提案の第2は、全会員による総会の開催です。今年はもう間に合いませんので来年度からの実施になります。

 提案したのはいいんですけど、実際にやるのは言い出しっぺが世の倣い。総会はなんとかなるとしても冊子化は結構シンドイかなと思っています。お金がないので入力は私たち。印刷も製本も私たち、かなあ。まあ、同じことを毎年やっていてもしょうがないので、少しは新しい風を吹かせたいと思っています。会員の皆さまのご協力をよろしくお願いいたします!




秋吉久紀夫氏詩集『ソクラテスの洞窟』
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2010.4.12 東京都新宿区 土曜美術社出版販売刊 2000円+税

<目次>
 
T
蘆溝橋の石獅子たち 10           武器を持たぬ兵馬俑 13
半坡
(バンポー)遺跡 16            一本の黄桷(バンヤン)の樹 18
七月・ソウルの花嫁 21           夢村土城遺跡 24
国宝第121号の「仮面」 27        台湾の竹 30
食用蛙 33                 線香の煙の漂うなかで 36
纏足用の小さな布靴 39           北回帰線 42
 
U
荒れ野での叫び 46             墨 48
悪霊の囁き 50               偽装 53
極寒のなかで 56              五島の大瀬崎灯台にて 58
丸太と名づけられた犠牲者たちへ 60     ひとりの日本人傭兵の死 63
飛翔する雁の群れ 66            楔形
(せっけい)文書232号 69
砂漠に自生する白百合 72          アフガニスタンの罌粟
(けし)畑 75
石榴
(ざくろ)のつぶやき 78.          真っ赤なチューリップ 81
ソクラテスの洞窟 84            古代ローマの円形闘技場で 87
カタコンベの壁画の魚たち 90        マドリードのフラメンコ 93
 
V
奄美大島のヒカゲヘゴ林 98         アマミノクロウサギ 101
加計呂麻諸島を望む丘の上で 104
.      襲い来る轟音の真下で 107
宮古島の蘇鉄 110
.             倭寇の防壘遺跡 112
先島の結縄文字 115
.            宮古島の人頭税石 118
先島諸島の人頭税石 121
.          流球最初の殉教者 123
石垣島の唐人墓 126
.            イリオモテヤマネコ 129
古見の蟹おどり 132
 執筆時期 136               あとがき 138




 
ソクラテスの洞窟

古代ギリシャ・アテナイ国の
齢七〇になる哲学者のソクラテスが、
反対派閥から突如、危険分子として訴えられ、
裁判にかけられたのに、弾劾もせず従容と、
死刑に処せられたのは紀元前三九九年の春だった。

それはエーゲ海に浮かぶパロス島で発見された
石の碑文に明らかに記録されていて、
如何に周到に隠匿されていても企みは卵の殻。
何を考えていたのか。あの獅子のような髯と、
鰐みたいな大きな口と人を射るあの鋭い目玉は。

判決から刑の執行の毒杯を脊むまでの一ケ月間、
かれは牢獄の中でどんな日々を過ごしていたのか。
公文書館
に保管の訴状「宣誓口述書」には、
「国家の認める神々を信ぜず、
他の新奇なる神霊を導き入れた罪と、

若者を堕落させた罪にて死刑を求刑」とあるが、
わたしにはどうも解
()しかねる。
三〇年にもおよぶペロポネソス戦争で、
敗退したアテナイに占領軍として進駐した
スパルタが意図的に画策した裁判ではなかったか。

「神は全知である。人は自己自身をこそ知れ」
熱心に若者たちに説いていた言葉はいまも、
かれが入獄していたと云う洞窟の中で木霊
(こだま)する。
わたしはアクロポリスの丘の石柱群を彼方に、
雑草の匂うミューズの丘の洞窟の前に佇んでいる。

  * 公文書館=アテナイ時代のキュペレ神殿(ディオゲネス『ソクラテス』北嶋美雪訳に拠る)。

 4年ぶりの第7詩集です。紹介したタイトルポエムは、実際に〈ミューズの丘の洞窟の前に佇ん〉だときの作品と思われます。有名な『ソクラテスの弁明』を下敷きにした詩ですが、〈スパルタが意図的に画策した裁判ではなかったか〉という視点は新鮮に感じました。
 本詩集中の多くの作品はすでに拙HPで紹介しています。
「ひとりの日本人傭兵の死」「奄美大島のヒカゲヘゴ林」「アマミノクロウサギ」「倭寇の防壘遺跡」「流球最初の殉教者」などです。ハイパーリンクを張っておきましたので、合わせて秋吉久紀夫詩の世界をご鑑賞ください。




詩誌『複眼系』43号
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2010.4.1 札幌市南区
ねぐんど詩社・佐藤孝氏発行 500円

<目次>
いのち舞う……………本庄 英雄…2     肌触り…………………本庄 英雄…4
秋の傘…………………本庄 英雄…6     マンデビラの花………板垣美佐子…8
歯車……………………板垣美佐子…10     待っていた日…………米谷 文佳…12
祭りに…………………米谷 文佳…13     うしろ姿………………米谷 文佳…14
長い花茎………………米谷 文佳…15     落葉が…………………鈴木たかし…16
福寿草…………………小林小夜子…18     女三人・二百十五歳…小林小夜子…20
日常……………………高橋 淳子…22     秋の始まり……………高橋 淳子…23
初雪の降った日………高橋 淳子…24     故郷……………………常田 淑子…25
いただく………………常田 淑子…26     待つ……………………常田 淑子…28
今日唯一の会話………金崎  貢…30     思うこと………………金崎  貢…31
セミナー………………金崎  貢…32     エッセーの会…………金崎  責…33
久しぶりの喜び………金崎  責…34     月下美人………………佐藤  孝…36
翳る……………………佐藤  孝…38
題字;本庄隆志
表紙写真「真駒内五輪のモニュメント」佐藤 孝




 
肌触り/本庄英雄

机の片隅に岩波国語辞典がある
電子辞書やパソコンに占有され影が薄い
西尾実・岩淵悦太郎編の背表紙もはずれ
厚紙で補修したのはいつだったか

二十代の頃
会社を立ち上げた仲間の事務所に勤め
一年足らずで倒産した記念の品なのだ

給料は止められ
怒号と罵声の渦の中
あす 差し押さえが入るので
事務所の金目
(かねめ)になるものを持っていってほしいと言う
社長は逃亡し
専務だった明るいS君の暗いその眼差しを忘れる事はできない

すでに がらんどうになった事務所の
目の前の事務机に
国語辞典が にぶい光を放っていた
誘われるように手にすると
(ぬく)い肌触りが伝わってきた
なんとかなるさ と
其のとき思った

一冊の国語辞典が
三ヶ月分の給料として充当されたのだ
三十八年前の出来事なのに
今でも この手に
芽吹くような痛みとともに
蘇えってくる

 事実かどうかは別にして、佳いタイトルの作品だなと思います。辞書の〈肌触り〉には独特のものがあって、私も好きなのですが、それが〈倒産した記念の品〉となれば、また別の感慨があるのでしょう。そこがよく描かれていると思います。それにしても〈一冊の国語辞典が/三ヶ月分の給料として充当された〉とは! 私などでは計り知れないご苦労も感じた作品です。




詩誌『金木犀』7号
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2010.4.20 さいたま市浦和区
広瀬千秋氏発行 400円

<目次>

居場所・猫と暮らせば………………三田 正子 2
横瀬川・戦火のはる…………………佐々木道代 4
影絵……………………………………坂東 寿子 6
消えたお菓子…………………………設楽 敏子 7
夕ぐれ・形の花(三)………………広瀬 千秋 8
アサギマダラ・ほととぎす・誕生…中村 友子 10
あかり・花とミツバチ…‥…………川上 美智 12
卵・蝶のささやき……………………伊藤 一郎 14
まやかし・北の出口で捕えて………細田 傳造 16
一・裸の木……………………………菊田  守 20
もくせい通り……………………………………… 22
□細田 傳造  □伊藤 一郎  □三田 正子
□佐々木道代  □菊田  守  □中村 友子
□川上 美智  □坂東 寿子  □設楽 敏子
□広瀬 千秋
「金木犀」住所録………………………………… 27
 表紙…………………………………伊藤 一郎




 
影絵/坂東寿子

秋になって
葉の落ちはじめた木が
障子に影絵をつくる
葉がまばらになった枝で
さえずる雀の姿もはっきり映るようになった
虫を啄んでいるのだろう

わたしは朝の食卓についた
障子をへだてた向こうとこちら
互いの姿をみせない控えめな構図
朝の光は静かに穏やかな向こう側を
影絵に展げる

 なんとも言えない〈静かに穏やかな〉な雰囲気が漂う作品です。わずか紙1枚の〈障子をへだてた向こうとこちら〉の空気の違い、そして同質さも伝わってくるようです。日本的な、と言ってしまえばそれまででしょうが、こういう詩も良いなと思います。汚れた精神まで洗われる思いです。






   
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