きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.3.12 湯河原町・幕山公園




2008.4.30(水)


 4月の最終日は、詩友が清里で開いているギャラリーのオープン準備の手伝いに行ってきました。冬の間は休館で、5月から10月までがオープンです。今回は版画の展示もやるということで、ご自宅まで取りに行って、それから清里に向かいました。中央高速も混雑はなく、愛車インプレッサでの快適なドライブでした。
 清里はまだまだ早春という感じでしたね。小田原地方に比べると半月は違うようです。



中島登氏詩集『遙かなる王國へ』
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2008.5.12 東京都新宿区 思潮社刊 600円+税

<目次>
 T
檸檬の夕暮れ 10   薔薇の唇 12     おまえの夜は 14
泡立つ 16      マズルカ 18     潮騒に 20
音の翼に 22     なにかがうまれる 24 満潮 26
遅れてきた詩人 28  ためいき 30     惜別 32
記憶 34       超絶技巧練習曲 36  しののめ 38
傷ついて ひとり 40  扇 42        静寂 44
狂気 46       流されて 48
 U
顔 52        選別 54       塔の歌 56
人生の帽子 58    退院 60       慎ましい食卓 62
バレンタイン 64   趣味の問題 66    コンサート 68
子供の領分 70    みなしごの耳 72   ポジション 1 74
ポジション 2 76  ポジション 3 78  ポジション 4 80
とうぜんの朝 82   雨の日の 84     冬の苺 86
乾く泪 88      悲しみの日 90    ガレージで 92
蛇に注意 94
 V
時の踊り 98     百日紅 100      ランボーの墓 102
アダージオ 104    黄色い太陽 106    水の音 108
水蜜桃 110      浄めのとき 112    梅雨ちかい窓から 114
登山電車 116     オルガン 118     さよならの木 120
おまえはなにものだ122 わたしの岸辺に 124  水と死 126
蝉しぐれ 128     風が突き刺す夜 130  草叢の煉瓦から 132
沈黙 134       その歌を止めるな 136
あとがき 138
初出一覧 140     装幀=思潮社装幀室



 ガレージで

ガレージでかれは戦車を分解する
部品のひとつひとつは無心に転がっている
部品のひとつひとつに罪はない
部品のひとつひとつに意志はない

それらは国家の意志でもない
戦争の意味すら知らない
ただそこに存在しているだけだ
純真無垢の一個の物質にすぎない だが

ひとたびそれらが組み立てられ
動力を与えちれ 銃火気を装備され
国家という名のもとに所有権を委ねられると

恐ろしい悪魔に化けて
国家意志の代弁者となり
国境を無視して徘徊し 総てを破壊し殺戮をくりかえす

 著者は本詩集を編んだ意図を、あとがきで次のように述べています。
 「この詩集を編んだ理由はいくつかありますが、この限られた十四行という詩型の中で、いかにして無限の詩の世界を創造しうるかへの、一つの挑戦でありました。真の詩の王國に至るためには、この関門を通らなければならないと自らに問いつづけ、この試みを自分自身に課してきました。それ以来、限定された領域の不自由さの中に自由を求めて、まったく不限定の、思いのままの自由な、ポエジーの別天地を構築することが、わたしの創造の大きな原動力となりました。」
 ソネットへの思い入れが深い文章だと思います。詩集タイトルの「
遙かなる王國へ」の意味もこれで判りました。

 ここでは、この詩集の中ではちょっと異質な「ガレージで」を紹介してみました。「部品のひとつひとつ」を私たち個人個人に置き換えられるかと思います。「純真無垢の一個の物質にすぎない」私たちが、「ひとたびそれらが組み立てられ」たあとの使い方によっては「恐ろしい悪魔に化けて」しまう怖さをうたっていると思います。

 本詩集中の多くの作品を、すでに拙HPで紹介しています。
「おまえの夜は」のおまえ≠ヘ、初出ではあなた≠ナした。「遅れてきた詩人」「しののめ」「静寂」「狂気」「選別」「退院」は一部改定がありますが、ほぼ初出通り。「子供の領分」は、初出ではしんじつ≠ニいうタイトルでした。「乾く泪」には今回―アウシュヴッツにて≠ニいう副題が付いています。「百日紅」「梅雨ちかい窓から」「風が突き刺す夜」「その歌を止めるな」は初出通りです。いずれもハイパーリンクを張っておきましたので、中島登ソネットをどうぞお楽しみください。



渋谷聡氏詩集『蓑』
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2008.4.10 日本図書刊行会刊 1200円+税

<目次>
逃げる 6      望めば杏林 12    明日はいらない 20
髭 26        終り 30       この気持ち 34
生きたい、と 38   いのち 42      小石 46
蓑 50        蘭 54        やっぱり 58
せっかくだはんで 62 われら消耗品 72   へぐな 76
単三やんでの人格 80 からもぐな 84    ちゃんとした香具師 90
遠い記憶 96     ちゃんとした三年生100 しげねがってら 104
初出誌一覧



 へぐな


信号待ちをしていると
動いているのか止まっているのか微妙な自転車がいた
よく見ると
その老人は確かに進んでいる
止まったら転ぶのだが
転ばぬぐらいの速さだ
見事な技だ
そう
へぐな
へぐな

昼寝をする娘の身体は止まっている
死んでいるわけではないのだが動かない
だが
動き続けている物はある
左胸の奥で
死ぬまで鼓動をならす
へぐな
生きてさえいれば動いてくれる

死人の毛髪は伸び続けるという
死人でさえ伸びるのだから
生きていれば
なおさら
へぐな
へぐな

  注…「焦るな」の意。津軽弁。

 まだ40代の著者ですが、これで詩集は6冊目になるようです。タイトルポエムの
「蓑」は、すでに拙HPで紹介していますから、ここでは「へぐな」を転載させていただきました。「よく見ると/その老人は確かに進んでいる」、「左胸の奥で/死ぬまで鼓動をならす」ものがある、「生きていれば/なおさら」と、津軽弁の「へぐな」がおもしろい味を出している作品だと思います。
 本詩集中から拙HPでは
「われら消耗品」もすでに紹介しています。いずれもハイパーリンクを張っておきましたので、合わせて渋谷聡詩の世界をご鑑賞ください。



緑野るり氏詩集『誰かを幸せにしたい』
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2007.9.20 第2刷 東京都新宿区 日本文学館刊 1400円+税

<目次>
誰かを幸せにしたいPart1…4      第1章 いつも緑をまとっていたい…7
第2章 世界の風景でいっぱいの家…25    第3章 お姫様が牛丼を食べたとき…49
第4章 さらに遥かな高みへと…83      第5章 ジャングルで歌を口ずさむ娘…115
第6章 あなたの好きな緑…139        第7章 眩い光の中に…159
誰かを幸せにしたいPart2…188
後書き…192


 誰かを幸せにしたい Part1

私のつくる家で、誰かを幸せにしたい。
大きな市庁舎や華麗な劇場、有名なホールでなくていい。
ごく普通の和やかな街に溶け込んだ、
優しい家族の住む小さな家。

明るい大きな窓が開いて、若い母親が顔を出し、
元気のいいお柿ちゃんと弟が、
ランドセルを背負って、玄関のドアから飛び出す。
日曜日には、広めにした駐車場で
お父さんが愛車を洗い、
そのかたわらで、
子どもたちが水遊びに歓声を上げる。

私のつくる家で、あなたを幸せにしたい。
人々が見学に来るような、
大胆で斬新な建物でなくてかまわない。
それぞれの家族に似合う、
けっしてどれも同じではない温かな家。

ほんわりした灯りに照らされた
リビングに家族がそろい、
夜になれば、
きょう1日のできごとを賑やかに語り合う。
おじいちゃんが塩辛をつまみに、
晩酌で鼻の頭を赤くし、
膝の上では、幼い孫がすやすやと眠る。

私のつくる家で、みんなを幸せにしたい。
後世に名前の残る、偉大な建築家になんかならなくていい。
たくさんの家族がその中で暮らし、
いつまでも思い出として残る楽しい家。

ダイニングテーブルには、
手作りの昼食が何皿も並び、
集まった人々の箸が、いっせいに料理をつつく。
友人が笑い、親戚が歌い、家の人々が満足気に微笑む。
ベランダでは、奥様自慢の色とりどりの花々が咲き競う。

そんな家をつくるためなら、
どんなことだってするだろう。
自分自身の人生のすべてを捧げてもかまわない。
だって私は、
家をつくるために生まれてきたのだから。

 1年半を難病で寝たきりになっていたという著者の、おそらく第1詩集だろうと思います。ここではタイトルポエムで、かつ巻頭作品の「誰かを幸せにしたい」
Part1を紹介してみましたが、病気にもめげず「私のつくる家で、誰かを幸せにしたい」という精神に敬服します。「ごく普通の和やかな街に溶け込んだ、/優しい家族の住む小さな家」は、人間の究極の目標なのかもしれないなと感じた作品です。



   
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